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□人が恋に落ちるのは万有引力の所為ではない
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今日も今日とて俺達SOS団の面々は、涼宮ハルヒによって振り回されていた。まあ、主に物凄い勢いで物理的に振り回される役は朝比奈さんだが。
そんな訳で現在の状況はと言うとだな、それはもう色んな意味で言葉にするのも憚られる、俺の記憶からは即座に抹消したい出来事が起こっているのである。
細かい事は俺が居たたまれないので割愛するが、端的に言おう。俺は古泉に押し倒されている。勘違いして貰っては困るので弁解させて貰うが、別にそういう雰囲気でも時間でも場所でもなくだな、今は放課後でここは部室だ。お願いだからこんな所、台風の目にだけは見つかりませんように…。
「……古泉、重い、どけ」
ああ畜生、俺の人生にまた新たな黒歴史が刻まれちまったじゃねーかどうしてくれる。
「すみません。ワザとではないんです、とだけは弁解させて頂きます」
「ワザとだったらお前の性癖を疑う所だ。責任取りやがれ」
「どのような責任の取り方をお望みですか?」
「変な言い回しをするな。お前はあれか、もし俺が女々しく『責任とって結婚しろ』って言ったら、本当にするのか?」
「えぇ、あなたがそうおっしゃるのなら」
「………………………」
恐ろしい事をにこにこ微笑い乍らサラッと言うな…止めてくれ、背筋が凍ったぞ今。
「冗談です」
「……お前の冗談はわかりにくい」
古泉は何が可笑しいのか鳥の鳴く様にクククと笑った。俺は色々笑うどころの問題じゃ無いんだが。
「あなたが女の子でしたら、すぐにでも責任を取って差し上げるのですがね」
古泉は格好付けて前髪をサラリと手で梳くと、何時もの優等生スマイルで言った。
「悪かったな、女の子じゃなくて」
俺がそう吐き捨てると、古泉はおや という顔を作った。何だよ、気持ち悪いな。
「もしかして、妬いちゃいました?」
「何にだ。都合良く解釈するな」
古泉はすみませんとは言ったが、やっぱりクスクス笑っていた。相変わらずムカつく笑い方だな。コイツみたいな整った顔でされると余計腹立つしな。
腹立ちついでに柔らかそうな頬を両側から思い切り抓ってやると、何時もは嫌みな位整った顔が物凄く間抜けな顔になった。
「いひゃいれす…」
「良い気味だ」
手を放してやると、古泉は頬をさすっていた。そんなに強くしてないから、多分格好だけでも抗議しようとしてるんだろうが。
「あなたは時々、こんな風に幼稚な悪戯をしてくれますよね…」
それは文句のつもりなんだろうか。お前だって変な冗談を言ったりするんだからおあいこだろうが。
「冗談では無いです」
「………は?」
「…と、言ったら どうしますか?」
「……どうもせん。変な事を言うんじゃない」
「……本気、なんですけど…ね」
…何だ、その“ね”って。
「いい加減に、素直になってくれても良い頃だと思うのですが」
「…まるで俺がへそ曲がりみたいな言い種だが、俺は自分でも思う位欲望に素直に生きてるぞ。これ以上どう素直になれって言うんだ」
「…ふふ、何でもありませんよ」
綺麗に微笑った古泉の顔が、一瞬寂しそうに歪んだ事に気付かなかった訳では無い。
…ただ、俺はコイツにはっきり言って欲しかっただけだ。何を、とは言わずもがななので割愛するが。…察してくれ、俺だって恥ずかしい事があるんだ。
「ちょっとキョンー、手伝って欲しい事があんのよ さっさと来て雑用しなさい!団長命令よ!」
「…やれやれ。わかったよ すぐ行くから待ってろ」
俺には少しだって考える暇も無いのか。下っ端は辛いぜまったく…
「涼宮さん、微力ながら僕も行きましょうか」
「助かるわ、さっすが古泉くんね。こっちよ!」
望んで雑用とは…物好きなもんだ。
ハルヒの後に続いて並んで歩く廊下は、既に夕陽で真っ赤に染まり始めていた。
目を細めて隣を歩く横顔を見ながら、俺もよくよく人が悪いのかなあ なんて思っていた。でも良いじゃないか、こんな10人いたら8人くらいは振り返るであろう美男子を、平々凡々とした しかも男の俺なんかが振り回してるんだ。もう少し、こんな優越感を味わってたって罰は当たらないだろう?




end
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