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□Re-birth
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いつの日かきっと、あなたのしてくれたあの夢物語のように
私の元へも幸福な終焉が訪れるのだと
ひとは皆、幸福な終焉を迎える為に生きるのだと、あなたが教えてくれたように。

私はそれを信じたかったけれど、ひととして生を受けなかった私は
きっとそのせいで、私には幸福な終焉が訪れなかったのだと
私は、私の生まれて来た事を、呪った。




そらは良い。
生き物は己の産まれる前の状態と近い状態になるのが一番落ち着くと言うから、俺はここで産まれたのだろう。
目を細めて、地球を見下ろす。あおく光るほし、彼の産まれたほし 僕等の守るほし。
目を閉じて、身体の力を抜く。こうしていると安心出来るのは、それが理由なのか、はたまたとある記憶を思い出すからなのか。

『ティエリア』

低めのテノール。
優しい声音。
柔らかい感触。
淡い色。
力強い手のひら。
次々と浮かんでは消えて行く、彼の記憶。
それらは既に記録として残されてしまっているので、決して完全に消滅してしまう事は無かったけれど。
人間は忘れる生き物であったから、それを半永久的に記憶し続ける事が幸福かどうかは、俺にはよく分からなかった。
それらの中で、一度だけ、普段の倍以上に柔らかい口調で、彼が言った事があった。
それは丁度、5年前の今日。
こんな思考に苛まれた時には、必ずと言って良いほどに思い出される。俺の中の中途半端な人間の部分が、苦しい程にその機能を狭める言葉。

「生まれてきてくれてありがとう、ティエリア」
そして、俺を好きになってくれて本当にありがとう。

目からは勝手に涙が溢れ出し、心臓は強く掴まれたようにぎりりと軋む。
これはあなたの言った通りの、幸福な終焉では決して無いのかもしれない。
けれど、不思議とこの感情に拘束されて終焉を迎えたいと、そう願ってしまうのだ。
ニンゲンでない事を呪った。完璧な機械にも成り切れない事を恨んだ。
そんな私を、ありのままを受け入れてくれた…彼の優しさが、私にそう思わせた。
そんな私こそ、あなたに感謝を告げなければならなかったのに。
涙が出る程にその言葉を理解出来る様になった時には、既にあなたはここには居ない。
ならばせめて、あなたの教えてくれたように、幸福な終焉を望んでみようと…人間では無い私にも、出来る限りのあなたへの愛情で、幸福な終焉に辿り着こうと…
その時には、一体あなたは何と言って僕を迎えてくれるのだろう?
あなたとの幸福を夢見て、僕は今日も、自らこの窮屈な手枷を嵌める。




end
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