好きです

好きです

好きでした

これは叶わない恋だから

これは持ってはいけない感情だから

僕の心の中に、しまって

ずっと、ずっとしまい込んで

もう二度と、この感情は表に出さないように

僕だけが、知っている、彼への思い





そうやって気持ちを隠して、何年経ったか
僕は彼の元を離れ、ひっそりと山での暮らしを満喫していた
町に行くのは1ヶ月に数度だけ
これも、彼に会わないためだ
彼に会ったらきっと、あの気持ちを抑えることができないから
そして、今月二度目の買い物をしに町に行った
そして僕はそれが間違いだったと後悔することになってしまった

買い物を済ませ、甘味処に寄るのが町に来たときの習慣だった
いつも通り、甘味処に入って店主としょうもない会話をしながら団子を頼む
あぁ、ここの団子は相も変わらず美味しい
僕が働いていた頃と、何も変わらない
彼と会う可能性があるとわかってはいても体はここに向かってしまう
いや、本当は心のどこかで会いたいと思っていたのかもしれない
それでも一応身を隠すために店の一番奥の一番目立たないところに身をおく
彼の特等席だった場所から一番遠い席だ
一番遠い席なのに、彼の声が聞こえてしまったのは、愛故なのだろうか

「おっさん、いつもの頼む」

元気の良い店主の声が店内に響く
でも、僕には店主の声なんか耳に入らなくて
注文した客の声だけが頭の中で響き渡っていた
あぁ、とうとう、会ってしまった
いや、このまま気付かれなければいいんだ
彼が、帰るのを待てばそれでいいんだ

注文したものを届けた店主とたわいない話をしている彼の会話が何故か鮮明に聞こえる
周りの客も会話をしているのに彼らの会話だけ、鮮明に
彼の声は心地よくて、僕は少し懐かしい気持ちになった
そして、やっぱり好きだと、実感した

彼の声をもっと聞きたい
でも同時に
これ以上、ここにいてはいけない
頭の中で危険だと騒いでいる
でも、体が動いてくれない
僕は臆病者だ

ぐるぐると葛藤していると会話は終了し、彼の食事も終わっていた
彼が席を立ち元来た道を戻ったのを確認した後僕も勘定を済ませ足早に店を後にした
もちろん、彼とは逆方向の道を進む
しばらく歩いたら激しい足音が近付いてきた
いやな予感がして速度を速めた
でも相手の方が足が速かったようだ
ぐっと肩をつかまれ強制的に止められた

「Hey,you ちょっと待ちな」

振り向きたくなかった
この声は、この言語を操るのは、彼しかいないから
彼は、何も言わずに僕を抱きしめた
僕は何が起きてるのかわからずどうすることもできなかった

「…I'm looking for you」
「え?」
「…ずっと、捜してた」
「な、んで…」
「そんなもん、お前が好きだからに決まってんだろ」

心臓が跳ね上がった
彼が、言ってることは本当、なのだろうか
冗談、じゃないのか

「何故、姿を消した」
「………」
「何故、何も言わないで、俺の側からいなくなった」

喉が張り付いたかのように開かない
喋りたいのに、話がしたいのに
ツンと目頭が熱くなった
次の瞬間、ぽたぽたと地面にシミを作っていた

「おい…?」
「…、離れたく、なかった…」
「…は?」
「本当は、離れたくなかった…!ずっと一緒にいたかった!でも僕は、庶民であなたは城主様で、僕は男で、あなたも男で…叶えちゃいけない恋だから、持ってはいけない感情、だから…心の中にしまって、あなたと会わないように、した…」

涙腺が決壊したのかと思うくらいボロボロと涙が落ちる
拭いたくても、彼が抱きしめているせいで拭えない

「…誰が」
「…?」
「誰が、そんなこと決めた。城主だなんだの前に、俺は俺だ。伊達政宗っていう1人の人間だ。お前と一緒にいれないなら、こんな肩書き誰にでもくれてやる。男だからなんだ。男同士だって問題ないだろ。心が繋がっていれば」

彼の言葉に更に涙が溢れた
嬉しすぎて言葉が出ない

「こっち向け」

強制的に彼の方を向かされる

「俺は、お前が好きだ。お前は?」
「…好き、です」
「ん、それでいい。もう、どこにも行くな。俺の側から離れるな」

彼の胸に頭を預けたら
優しく頭を撫でられた

「…強引なんですね、相変わらず」
「そんなとこも、好きなんだろ?」
「そうですけど」

本当はこうやって話したかった
触れて欲しかった
抱きしめて欲しかった
ただ、僕は臆病者で、弱虫で
一歩を踏み出せずに逃げ出した
彼は、そんな僕を捕まえてくれた
もう、二度と、この人から離れない
そう、心に誓った


「俺の城に来い。永遠に、俺の側にいろ」
「…はい」


初めて、心が満たされた気がした



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