短編

□先手必勝
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今日は日曜日。

平日の騒々しさはなく、車の行き来は少ない。

どこからか子供たちの声も聞こえる。

いつも日曜日は何だか時間すらゆっくりと流れるような気がする。



なまえは暖かいミルクのマグカップを持ってソファに座った。

さて、今日は何をしようか。

テレビでも見ようかとリモコンに手を伸ばしたその時、二階から何かが壊れるような大きな音がした。

びっくりしてマグカップを置き、階段を駆け上がってみると。



「よぉなまえ。来てやったぜ」



さっきの大きな音の犯人はサニーに違いない。

その証拠にサニーの足元にガラスの破片が散らばっている。

背後には割れた窓。

この異常な状況になまえは何とか頭を動かした。



『来てやったじゃなくて……何なの、これ』

「んあ?オレなりの美しい登場だっつの」

『あのね……!』



頭が動くようになればすぐに脳内は怒りで一杯になった。

なまえは部屋の入り口で仁王立ちになってぎろりとサニーを睨んだ。

弁明したって通すものですか。



「…んだよ」

『毎度毎度思ってたけど!何で玄関から入ってこれないのよ!』

「だからオレの美しい―――」

『美しい美しくないの問題じゃないの!修理費だってかかるんだから!』



サニーの悪い癖の一つだった。

施錠してある窓から入ってくるのは日常茶飯事で、鍵も壊される。

その度に直さなければならないなまえには勘弁してほしい話だった。

いつか言ってやろうと思っていたが、今日は限度を越えている。



サニーはふん、と肩をそびやかしたが、なまえに凄まれて目をそらした。

湯気を立てんばかりに怒るなまえ。

多少は自分がしでかしたことを思ったのか、サニーは徐に一枚のカードをなまえに渡した。



『……なに』

「別にお前を困らそうと思ってるわけじゃねんだよ。けど…悪かった」

『…それは?』

「これで直せよ」

『―――!』



カードを受け取ったなまえは目が点になった。

サニーのクレジットカードだ。

だが問題はそこではなく、そのカード会社だった。

年会費も莫大な、超高級なカード会社なのだ。

サニーにしては珍しく素直に謝られてなまえは少しばつが悪くなった。



『えっと……その…受け取っとく』

「好きに使えよ」

『……。…そうだ、何か食べる?』

「ん」

『あ、その前に』

「……?」

『ガラスの破片、全部拾っといて』



ほどなくして宙に浮かんだガラスの破片は一様にゴミ箱に収まった。

門番のように立っていたなまえは組んだ腕を解いて廊下へ出た。

階段を下りる。

サニーの触覚が自分の髪をいじるのを感じながらなまえは一人にやりと笑った。

好きに使え、ね。

了解。
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