Como una doble helice

□02.
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五月の終わりの空に、重い雲が圧し掛かっている。

ロンドンの空は今日も曇り。

六月も近いというのにまだ少し肌寒い。

なまえはベージュのストールをしっかりと巻き直した。

昼休みにサンドイッチを買ってオフィスに戻るところだった。

行政が集まるウェストミンスター地区。

数年前のあの日、ここも甚大な被害を受けたが今ではほとんど元通りになっている。

恐らくたくさんのインプ、フォリオット、ジンを駆り出して修復させたのだろう。



なまえは建ち並ぶ大きなビルの中、古風な雰囲気を保つ建物に入っていった。

その外見とは裏腹に内装は最新仕様で、数ある政府の施設の中でも快適な方だと思う。

エレベーターで五階まで上がると、自分のオフィスへ向かった。



なまえのオフィスは南に面していて、窓からは国会議事堂がよく見える。

木製の大きなドアを開けると、シックな色合いの机と、黒革張りの居心地のよさそうな椅子が待っていた。

それと書類の山。



『やれやれ、いつもの光景ね』



なまえは思わず呟いた。

同じ量の書類をついさっき終わらせたばかりだというのに。

なまえは情報整理の能力を買われ、諸方面へ渡る書類をチェックしていた。

そんなわけで毎日莫大な量の書類を相手にしている。



『……いつの間にかお人好しになっちゃったみたい』



山を崩さないようにそっとサンドイッチを置いた。

そこで小さなメモが置かれているのに気付いた。

目を通すと。



―――大使、首相がお待ちです。

―――戻られましたら至急、首相官邸へお急ぎください。



流れるようなその字は補佐官のハリエット・コックスのものだった。

メモを持ったままなまえは考えた。

私になんの用だろう?

何にせよ、急がなければ。

執務室が入っている首相官邸は少し離れている。

なまえは買ってきたばかりのサンドイッチもそのままに、部屋を出た。



首相官邸はダウニング街に位置しており、十分ほどで着いた。

身分証を見せ、簡単な身体検査を通ってダウニング街に入った。

空と屋根には監視のために、フォリオットやジンがうようよいる。

正面玄関でももう一度身体検査を受け、帝国の中枢、首相官邸へと入った。



いつ来ても圧倒される造りだ。

壁には歴代の首相の肖像画が飾られ、なんとも豪勢だ。

ほどなくしてなまえは大きな扉の前に立った。

両脇には二人のアフリートが控えている。



(……そんなに睨まなくたって何もしやしないわよ)



睨みをきかせるアフリートを見て思わず心の中で呟いた。

なまえは気を取り直して扉をノックし、返事を待って中に入った。
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