森羅万象の理
□小幕 揺らめく焔
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焚き火がパチパチと小気味好い音を立ててはぜている。
明かりなどあるはずもない山中では夜の帳が下りればすぐに闇に包まれる。
二人は陽が落ちて薄暗くなると野宿できそうな場所を探したのだった。
何せ近くの宿、といってもまだ相当な距離がある。
名前は手に山菜やら茸やらを沢山抱えて今晩の寝床までの道を戻っていた。
(さすがにこれだけあれば二人分は十分あるな…夜目がきくってのは便利なもんだ)
あとは川魚でも釣れればいいか。
そう思って名前はギンコのところへ戻った。
ギンコは近くの川で既に魚を何匹か釣ったらしく、焚き火の周りに立てていた。
「お、早いな名前。それにこの暗い中よくこれだけの物見つけられたな」
『私は夜目がきくから夜を歩くのには困らないんだよ。ギンコこそよく魚釣れたな』
「まぐれ、ってやつだ」
魚はそのまま素焼きに、山菜は蒸し焼きに変わった。
名前は黙々と食べながらギンコをちらりと見た。
よく初対面で共に旅しようなんて誘ったものだ。
そんな名前の思いを汲んだかのようにギンコが口を開いた。
「なぁ名前、お前郷里に親兄弟がいるんじゃないのか?勝手に誘った俺も俺だがお前帰るところがあるんじゃないのか?」
『ん…いや、私に郷里と呼べる里はないんだ。親兄弟もね』
「ほぉー。……そりゃまたなにか訳があるのか?」
『…私には郷里の記憶がないんだよ』
「記憶がない……?しんらの家で言ってた昔取り憑かれた蟲に関係してるのか?」
ギンコは聞いていいか戸惑っているのか少し躊躇して聞いた。
名前の答えに驚いたのかギンコは食べる手を止めた。
名前は膝を抱え、顔を伏せた。
どこまで話していいのか。
この男は信用できる。
そのことは重々分かっている。
だが―――。
ギンコは名前が話し出すまで静かに待っていた。
『あれは…嘘なんだ。すまない、ギンコ。私には小さい頃の記憶がないんだ。全くね。覚えてる一番古い記憶は…白い布を頭から被った人のような姿をしたものに囲まれてるところだ』
ギンコは目を見開いた。
心当たりがある。
それはまさか―――。