短編
□拍手お礼文
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全く―――不思議な娘だ。
自分の前を歩く娘を見やりながらギンコはしみじみ思った。
まず娘らしいところがさっぱりない。
山歩きは相当達者な上にちょっとやそっとじゃ驚くこともない。
常に冷静で男勝り、とも言えるだろう。
それに生い立ちや歳までもよく分からない。
見た目は俺より少し若いくらいだがなんだかもう随分前からこの世を見聞きしている、そんな印象を受ける。
むろんそんなことを本人に聞けば怒るだろうが。
(なんで俺はこいつを旅に誘ったんだろうな)
答えられぬ問いを自身に投げかけてギンコはふっと笑った。
『ギンコ、どうかしたのか?』
知らぬ間に足が止まっていたギンコを怪訝に思ったのか声がかかる。
「ん、いや何でもない。この山を超えたらちょっとした街道に出るがお前何か欲しい物はあるか?」
この前立ち寄った村で流行っていた蟲が原因の奇妙な病をギンコが見事解決したために珍しく金品を謝礼として受け取ったのだった。
久しぶりに懐に余裕ができたというわけだ。
『いいのか?なら……簪が欲しい』
気恥ずかしそうにはにかみながら娘は答えた。
少し予想外だったギンコはつられて微笑んだ。
「そうか、分かった。よし、そうと決まったらさっさとこの山超えちまおうぜ。着いたらついでにうまい飯でも食うか」
そういうとギンコは娘を抜かして先を歩き出した。
娘も負けじと歩を速めて付いてくる。
歩きながらギンコは娘を旅に誘った理由なぞ今はどうでもいいと思った。
あぁ、今はどうでもいい。
それと―――。
「…なんだ、娘らしいところもあるじゃねぇか」
ギンコの独り言は娘には届かず、風に何処かへ流されていった。