《あの男…》
□あの男…7
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「は?」
柳生は唐突に素っ頓狂な声を出す。
「いや、なんか幸村くんとかって人が、うちのクラスに私のことを聞きにきたらしいって…なんでかな?」
「……さあ」
柳生はそれだけ言うと、視線をはずし、歩みをとめた。
「それじゃあ、こっちに用事がありますので」
彼は職員室の方向を指さす。
「うん、じゃあまたね」
どこか、柳生くんが悲しそうな表情をしていたような気がして、花子は彼が去った方向を少しの間だけ、見ていた。
「ねぇ、真田くん」
3時間目の化学は、教室移動だった。
席は自由で、たまたま近くに真田がいたので、声をかけてみた。
「なんだ?」
「あのさ、幸村くんってどんな人?」
「幸村?」
真田は鸚鵡返しにそう言った。
「うん。なんか、うちのクラスに来たらしいんだよね」
「幸村が…」
真田は腕を組むと、口を開いた。
テニス部の元部長で。
関東大会の際には、病気で参加ができなかったが、全国大会では堂々とした戦いを繰り広げ、結果は残念ながら負けてしまったが、テニスの腕前は相当なものらしい。
「神の子…だっけ?」
「ああ」
「へぇ…」
と、花子が言った時だった。
「だが全国大会からこちら、幸村は少し変わったな」
「…変わった…?」
「ああ。テニスに対する考え方というか…」
そういえば、と真田は続ける。
「山田が転入してきた後も、少し雰囲気が変わったような気がするな」
そう言ったのだった。