《あの男…》
□あの男…1
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花子は驚いた。
広大な校庭。
巨大な校舎。
東京とはいえ、田舎の市立中学にいた花子にしてみれば、驚愕するばかりであった。
ここに、自分が通うという事実も同様だ。
まったく、何でこんなことになったのか。
理由は実に、単純であった。
親の都合というものだ。
花子は、小学校までをアメリカで過ごし、そして中学になって東京に来た。
友達もでき、楽しく学生生活を過ごしていたというのに、親の仕事の都合で神奈川県にくることになったのだ。
ここ、立海大付属中学は中でも体育の発達した学校であり、花子にしてみれば、まぁ妥当な判断なのではないか、と思った。
だが決して、花子は体育が得意ではない。
好きな競技はあるが、自分はあくまで高校に進学したのちには、文学部へと進もうと考えているぐらいの学生だ。
この学校を選んだのは、家から近いから。
それだけのことだった。
だがこの3年生という時期に、学校もわざわざ体育に全力をそそげ、とは言わない。
もちろん、特待生ではないかぎりふつうに勉強をし、付属高校に進むもよし、外部に進むもよし。
そういった自由な行風も、花子には頼もしく思えたのは事実だ。
だが3年のこの時期に転入などと、少し不安である。
クラスに馴染めるだろうか。
受験勉強はどのように取り組めばよいのか。
花子は、ため息をつき、校門をくぐったのだった。