《あの男…》
□あの男…2
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真田は見た目に反し、意外に友好的であった。
皇帝の通り名に笑ってしまった花子が珍しかったのか、色々と話しかけてきた。
「山田はテニスはしたことがあるのか?」
真田の質問に、一瞬迷ったものの、首を横にふる。
「授業でやったぐらい。きっと打ったらホームランだよ」
下手すぎる人間は、ラケットでボールを打つと、ネットを越え、コートを越え、場外にまで飛ばしてしまうのだ。
「そうか。まあ、興味があったらコートにきてみるといい」
「お、真田直々に指導してくれんのかよ?」
テニス部平部員の軽口に、
「精進しない者には指導しない」
と、ずばりと言い返す。
だが口で言っているほど厳しい感じがしないのは、きっと彼が口元に小さな笑みを携えているからだろう。
「へ〜あの真田がそんな事言うなんてな〜」
「ホント〜」
口々に言われ、真田は今度は眉を寄せる。
「もしかして山田さんの事、好みなんだろ〜」
茶化す言辞に、花子も慌てる。
「たわけが」
漏らされた言葉が、それでも茶化した男子生徒が花子の緊張を解そうと言ってくれたものだとわかっているのだろう、真田もどこか楽しんでいるような印象を受けた。