《あの男…》
□あの男…3
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彼は優しげに微笑んだ。
「いえ、大丈夫ですよ」
そう言われ、彼もこの教室を使う目的できたわけではないようだった。
「この教室はいつも使われていないので、人がいて驚いてしまって」
「そうなんですか…」
では、彼は何をしにここにきたのだろうか。
そんな疑問が顔に出ていたのか彼は微笑する。
「この教室は放課後いつも静かで、ちょっとサボリに」
そう言った彼に、花子も笑った。
「確かに。静かだし、窓からの風景もいいし」
「そうですね」
彼はゆっくりと窓に、花子の隣りまで来た。
窓枠に手をかけ、外を見る。
「テニスボールを打つ音や風や木の音…ここちよく聞こえるんですよね」
微笑む男に、だがこの時、花子は微かな違和感を感じた。
「遠くでホルンの音もする」
「…吹奏楽部?」
彼は頷いた。
違和感が何なのかわからないまま、だが彼も花子同様、この空間を心地よく感じているのは確かなようだ。
なんだか同じ雰囲気を共有できているような、そんな高揚を得る。