《あの男…》
□あの男…4
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あの日から花子は、暇さえあればあの教室を訪れていた。
柳生もちょくちょく来ていて、いろいろな話をしている。
彼はあのテニス部のレギュラーだと言っていた。が、もう引退もしたので部活にはそれほど出る必要がないらしい。
しょっちゅう、真田に呼び出されては後輩の指導をしなくてはいけないらしく、テニス部に行くものの、「サボりに来ました」とよく教室に来た。
今日も放課後、花子はこの多目的室に来た。
扉を開けると、そこには既に柳生がいた。
「こんにちは、山田さん」
未だ、彼のこの口調には慣れない。と言うよりも、違和感がある。
「今日もサボり?」
彼はジャージを羽織っていた。
「真田…くんが、なかなか煩いんですよ」
「あはは。彼、真面目そうだもんね」
「真面目と言うか…テニス馬鹿と言うか…」
なかなかズバッと言う。
「皇帝だしね」
と、また笑ってしまう。
「そんなに通り名がおかしいですか?」
当人前に、肯定するのは気が引けたが、柳生自身も楽しんでいるような感があったので、遠慮をすることをやめた。