《あの男…》

□あの男…5
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花子はテニスができる。


小学校まではアメリカにいて、そのころ日本人のあるプレイヤーと知り合い、テニスを習った。


その人物から教えてもらったことは、「テニスを楽しむ」こと。

だから、大会にも出ない。

勝負もしない。


それは楽しむこととは違うぞ、と言われたがそれが花子にとっては、自分のテニスなのだ。


だから、勝つことに対して、必死になる人間を見ても、何も思わなかった。


それは、さめているだとか、スポーツマンシップだとかそういった問題ではない。


花子のテニスの楽しみ方が、そういう信念のもとにあるからだ。

とはいえ、試合をしたくないわけではないのだ。


「…はぁ…」


ため息が出る。


「山田さん、どうしたの?」


授業が終わり、放課後になると何故か出る、ため息。



「ううん。大丈夫だよ」


そう言うが、隣の席の彼女は不思議そうな顔をする。


「あ、そう言えば!」


彼女はポン、っと手をたたいた。


「幸村くんが、山田さんのことを聞きにこのクラスに来たらしいよ」


「……幸村??」


誰それ、と言うと、やはり彼女はあきれたような表情をした。


「も〜何度もいったでしょ〜」


「…ごめん」


いいよ、と彼女は笑う。


「テニス部の元部長の幸村くんだよ!」
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