《あの男…》
□あの男…5
1ページ/6ページ
花子はテニスができる。
小学校まではアメリカにいて、そのころ日本人のあるプレイヤーと知り合い、テニスを習った。
その人物から教えてもらったことは、「テニスを楽しむ」こと。
だから、大会にも出ない。
勝負もしない。
それは楽しむこととは違うぞ、と言われたがそれが花子にとっては、自分のテニスなのだ。
だから、勝つことに対して、必死になる人間を見ても、何も思わなかった。
それは、さめているだとか、スポーツマンシップだとかそういった問題ではない。
花子のテニスの楽しみ方が、そういう信念のもとにあるからだ。
とはいえ、試合をしたくないわけではないのだ。
「…はぁ…」
ため息が出る。
「山田さん、どうしたの?」
授業が終わり、放課後になると何故か出る、ため息。
「ううん。大丈夫だよ」
そう言うが、隣の席の彼女は不思議そうな顔をする。
「あ、そう言えば!」
彼女はポン、っと手をたたいた。
「幸村くんが、山田さんのことを聞きにこのクラスに来たらしいよ」
「……幸村??」
誰それ、と言うと、やはり彼女はあきれたような表情をした。
「も〜何度もいったでしょ〜」
「…ごめん」
いいよ、と彼女は笑う。
「テニス部の元部長の幸村くんだよ!」