《あの男…》
□あの男…7
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「おはようございます、山田さん」
登校時、廊下で突然声をかけられ、花子は驚いた。
振り向くと、柳生がいつもの微笑を浮かべていた。
「あ、おはよう」
今日は日直もあり、早く登校していた為、生徒はほとんどいない。
おそらく、柳生も朝練に参加でもしたのだろう。
考えてみれば、校内で柳生に会うのはあの教室以外ではこれがはじめてではないだろうか。
「どうしました?」
また、いつもの丁寧な口調に戻っている。
だが、他人の口調に違和感がある、などと失礼な事はあまり言わない方が良いだろう。
「ううん。あ、そういえば今度、テニス部で元レギュラーの試合があるらしいね」
「よく知っていますね」
テニス部に興味のない花子のことだから、知らないとでも思ったのだろうか。
「友達がいろいろ教えてくれるの」
「友達?」
花子は、隣の席の彼女のことを話した。
「なるほど。で、見に行くんですか?試合」
「いや、たぶん行かないと思う」
「…その彼女は他に何か言っていましたか?」
変な質問をするものだ。
まるで、テニス部に関して、知られてはいけないことでもあるかのようではないか。
「あ…いや、変な意味は…」
と、柳生は口ごもる。
なんだかわかりやすい反応である。
「あ、そう言えば…幸村くんだっけ?」