POKEBASA本編そのB

□66 悲劇の涙は流れない
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「『かえんほうしゃ』!」
「『ハイドロポンプ』!」

バシャーモの炎とドククラゲの水が正面からぶつかり合い、水が炎によって水蒸気に分解された事によって真っ白な煙幕が双方の視界を塞ぐ。
ヒナギクのメンバーの中で、唯一の戦闘要員と言っても良いバシャーモが前線に立つ事で、ヘルメスが炎タイプに有利な水タイプのドククラゲを出して来る事は予想してはいた。
奴の手持ちのポケモンはドククラゲにオニドリル、そしてフーディン…どうしたものだろうか、みんなバシャーモと相性が悪すぎる。
しかも、ヘルメスのポケモンたちだけを警戒してはいけない。
“再利用”と言う名目で奴は他にポケモンを差し向ける…人間の欲望を吐き出した、非人道的な研究の実験体となってしまったポケモンたちを…。

「流石に、バシャーモだけじゃ…!トゲキッス!」
「キッス!」
「煙を掃ってくれ!」

トゲキッスが翼を羽ばたかせ、真っ白な空間が瞬く間に晴れて行く。
ヒナギクの視界が正常になると、ヘルメスは豊臣軍の兵たちに取り囲まれていた。
大坂城の前衛防御である深い堀を『テレポート』で越えて来て急に城門を突破して侵入して来たら驚く、しかし驚いてばかりではない、城の守りに就いていた兵たちは槍を片手に追って来たのだ。
豊臣の兵は半兵衛の調教の賜物か、一兵卒の実力アベレージは日ノ本各地に散らばる軍でも秀でている。
しかも、上司が指示を脱してから動くような者たちではない…己が出来る事を、己の役割を判断して自ら動くのが豊臣兵の最大の強みだ。
元々彼らは戦ためだけに徴兵された者ではない、秀吉の掲げる日ノ本改革論に感銘を受けて自ら志願した改革の志士たちなのである。
そんな彼らは敵を『ロックオン』した、もう二度と、この大坂城を土足で踏み荒らさせはしないと…。

「貴様!かかって来るが良し!」
「逃げてはならぬ…逃げてはならぬ…!」
「何時かの借り、返させて貰おうぞ!皆の者!一斉にかかれぇ!」
「っ、待て!」

制止の声も聞かず、槍や刀を片手に豊臣兵たちは中央で囲まれているヘルメスとドククラゲに向かって行く。
後方に控えていた部隊は弓を引き、矢が降り注ぐ…例え魔獣を従えていようと、この包囲網なら仕留められなくとも怪我の一つは負わせられるはず。
半兵衛が留守にしている今、自分たちがやらなければ!

「フーディン『テレキネシス』」

一斉に飛び掛かった豊臣兵たちも、頭上から降り注いだ何十本もの矢も空中に持ち上げられて静止し、兵たちはただもがくだけであった。
『テレキネシス』によって宙に浮いた兵たちは、フーディンが両手に持つ匙と同じ動きをしたかと思うと、鋭い矢じりの切っ先と共にそこら辺にポイっと捨てられる。
まるで、「お前らに構っている暇はない」と、言っているかのようであった。

「矢がこちらに振って来るぞーー!」
「畜生、俺の友が!」
「お、落ちるーー!?」

このまま落下したら確実に骨折程度の重傷、及び無差別に矢の雨が降って来る…フーディンによってポイっとされた者の中には、死を覚悟した者もいた。
しかし、此処で救世主が現れる。
その片腕を豪快に振るうと、その拳圧によって巻き起こった突風が矢を弾き返し、地面に落下する前に兵たちを掬ったお陰で彼らは定位置から落下したために怪我を免れたのだ。

「秀吉!」
「秀吉様ーー!」
「お、御大将!ありがとうございます!」
「貴様…ヘルメス!我が兵たちへ、随分な対応だな!」
「ドククラゲの『どくばり』で全滅させなかっただけマシだと思ってよ。早速出て来たね、ゴリラ山の大将」

豊臣軍大将・豊臣秀吉の出陣である。
現在、この隙を狙ったのかそれとも偶然なのか、両兵衛を始めとした豊臣の戦力が守備の確認のために南方面へ流れている今、大坂城には大将だけが腰を降ろしている。
魔獣を従える異邦人、因縁のある相手、しかもヒナギクの話から相当危険な思考を持ったギンガ団幹部・ヘルメス。
こいつだけは、この手で握り潰さなければ気が済まない…!

「来い、異国の賊よ!貴様だけは、我が手で潰してくれるわ!!」
「…ひひひ!悪いね、これでも一応“ポケモントレーナー”だから、生身の人間は相手に出来ないよ!」
「どの口が言う」
「だから、この玩具で遊んでくれ。もう…“生身”は品切れなんだよ」

ヒナギクのツッコミにも耳を貸さず、そう言ってタブレット端末を取り出すと画面をタップして何かを起動させる…地響きと共に地面が盛り上がるその光景は、あの日のようであった。
出て来たのは鋼鉄の蛇・ハガネール…見た目だけなら、ハガネールであったが、その両目には機械の光を宿している。
本能寺で襲って来た兵器がメカバンギラスなら、こちらはメカハガネール…破壊兵器の、お出ましであった。

「どーよ、タイトルを付けるなら『ゴリラの拳VSメカハガネール』ってところか?」
「やっぱり、本能寺のメカバンギラスはお前の仕業か!」
「ピンポーン♪エキセントリックマッドな野郎が研究を鞍替えしたんだよ。奴が望む研究をこの世界で続けた結果、ポケモンを超える兵器を造り始めたんだ」

ポケモンの進化を超える真価を示す兵器、人間の叡智の結晶である機械でポケモン世界の神秘を凌駕しようとした。
メカバンギラスを始めとした初期の物は完成度が低いため、こうして再びヘルメスが再利用をしているのである。
メカハガネールの口からガトリングガンが飛び出ると、そのまま火薬の臭いと共に鋼鉄の弾丸が放たれた。
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