Searcher設定・番外編

□閑話
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『奏の遺跡』での捜索を終えた後の閑話



「みてみて!大きい鳥だよ!いっぱいいる!」
「あれは『魚肉コンドル』の群れだな。美味そう〜」
「うまそう」
「美味そうっ?!」

何故鳥を眺めていたらそんな台詞が出て来るかと思いきや、トリコが魚肉ソーセージに似た肉を持つコンドルを見た感想だから仕方ない。
『奏の遺跡』にてシランが行方不明者となってしまったのももう先日の出来事、現在彼らは巨大なヘリに乗ってIGO本部へと向かっている。
シランとノバラがカフェの開店準備のために『ホテルグルメ』へ行ったら、IGOの人間と名乗る黒服たちに連れられてあっと言う間にホテルのヘリポートへ、先客にはトリコと小松がいた。

「『シンフォニック・リリー』を見付けたシランの事を会長(オヤジ)に話したら、シランに会ってみたいだとさ」
「凄い事ですよ。多忙な一龍会長が直接面会したいって」
「IGOの会長さんですか…どんな方なんですか?」
「どんな、って言ってもな。オヤジは親父だ」

美食神・アカシアの一番弟子にしてIGOの頂点に君臨し、その実力は老いても尚美食四天王でも未だに敵わないだろう。
そして、彼らの育ての親でもある…一龍もまた、シランと同じ父親なのだ。

「“父親”ですか。少し楽しみですね、今までママ友はいてもパパ友はあまりいなかったので」
「い、一龍会長とパパ友になるんですか?まあ、トリコさんたちのお父さんって事は間違ってませんけどね」
「あっち!ホエルコがいるよ!海のなか!」
「ノバラ、それはホエルコじゃないよ」
「キラキラしてる〜」
「『純金クジラ』!美味そう〜!」

空と海の青に囲まれた窓の外、大きなヘリコプターで空を飛ぶと言う経験がないノバラにとっては未知の体験であり、大興奮の渦に突撃するには十分すぎた。
空を飛ぶ鳥に海を泳ぐ魚、それらが見える度に無邪気にはしゃいで左右の窓を行き来している。
こんなにはしゃいでしまって、本部に着いた時にはどうなってしまうか…?
シランの心配は約1時間後、彼が一龍との面会の時に的中した。

「始めまして。『Café Missing Man』のマスター・シランと申します。一龍会長」
「そう畏まらんでも良い。『奏の遺跡』では災難じゃったな」
「ええ、でもトリコさんたちが助けて頂きました」
「ま、それぐらいしてもらわんとな〜。そう言えば、小さな娘ちゃんがいると聞いたが、留守番か?」
「ああ、ノバラと言うんですけど、実は…」

実は、行きのヘリの中ではしゃぎ過ぎてしまい、本部に到着する頃にはすっかり疲れ切り…現在、ぐっすりとお昼寝チュウである。
フカワカのソファーに小さな身体を寝かせて、掛布団替わりにおとーさんのジャケットを掛けて来たがしばらく起きないくらい深い眠りに落ちていた。

「可愛い娘じゃのう。やはり娘は良いもんじゃ…リンは結局、ワシの事パパって呼んでくれなかったし」
「可愛いんですよね。寝顔も普段も」
「じゃ、本題に入ろうか」
「本題?」

シランと話がしてみたいだけではなかったらしい…本題と称して、一龍が取り出したのはまだ記憶に新しい白い花。
少し前に見た時は活き活きと、凛とした姿勢で真っ直ぐに咲き誇る『シンフォニック・リリー』の植木鉢がシランの眼の前に置かれたのだ。

「これは、『シンフォニック・リリー』」
「そう、キミが見付けた人間界最後の一輪じゃ。こいつを見付けてくれたお陰で、IGOは種の保存に成功した。このオリジナルも再生済みじゃ。もっと良い音を奏でて、甘露と呼ばれた蜜も出してくれる。こいつを、マスターにもらって欲しい」
「っ?!頂けません、こんな貴重なものを」

種の保存に成功し人工的に栽培が可能になった『シンフォニック・リリー』だが、シランが見付けたこのオリジナルは人間界に自生する最後の一輪だ。
絶滅しかけた希少で貴重な花…闇のグルメルートで出回れば、投資家たちが湯水のように金を叩いて手に入れたい食材を、一介のカフェのマスターに託すなんて恐れ多い。
だけど想い出して欲しい、消えそうになる花の叫びを聞いて暗い地下から明るい日の当たる場所まで連れて来たのは誰かと言う事を。

「マスター、“食材”が呼ぶ声…今回の場合は、歌だったが、それを聞いたのはキミじゃ。食材も生きて意志を持ち、時には調理する人間を選ぶ。『シンフォニック・リリー』が選んだ人間は、キミだったと言う事じゃ。ワシらIGOの仕事は食の流通と安定だが、食材が行きたがっている場所へ連れて行くのもまた使命。『シンフォニック・リリー』がキミと行きたがっている。連れて行ってやってくれ」
「……一緒に、一緒にいられる時間は限りあるかもしれません。私たちが帰るその日に、この子を連れて行けないかもしれません。それでも、その花の旋律を私たちに預けてくれるのですか?」

憂いの表情を見せた紫の目に飛び込んで来たのは、トリコと同じように温かく雄大な一龍の笑顔…勿論、会長としてではなく、食材を想う1人の美食屋として彼は笑顔をみせてくれたのだ。
IGOが人工栽培に成功したと報道され、高価ではあるが市場に流通し始める音楽と美食の甘露花『シンフォニック・リリー』。
そのオリジナルが、ホテルグルメ32階のカフェにある事は、あまり知られていない。

「すいません。ノバラはどうですか?」
「ぐっすり眠っていますよ。あれだけはしゃいじゃったら、やっぱり疲れちゃいますよね」
「確かに」
「うにゅ…」
「オヤジとの話は終わったのか?」
「はい」

小さな眠り姫を起こさないように小声でこっそりと、彼女をもっとゆっくり寝かせてあげられる場所へ移動させようか。
ゆっくり抱き上げて黒髪を優しく掻いてあげると、夢の中で嬉しそうに微笑んでくれた。







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