Searcher本編

□01 Missing Man's Master
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Searcher〜Missing Man’s Master



誰かが言った、霧のように繊細で滑らかな舌触りと、口に入れた瞬間にあっと言う間に消えてしまう儚さを持つ極上の綿菓子があると。
誰かが言った、少しでも触れればほろほろと崩れてしまうほど脆く、白く美しい砂糖菓子でできた木があると。
世はグルメ時代、未知なる味を求め探究する時代―――

そのグルメ時代を象徴する花形と言えば美食屋だ。
人々が味わった事のなる食材を求めて未開の地へ、時にはその生命さえもかけて持ち帰る食材が百花繚乱に輝く事によって、グルメ時代は燦々とした光を放つ。
数多くの食材を発見した功績から、美食四天王と呼ばれる美食屋のカリスマ・トリコと、そのパートナーであるシェフの小松も危険地域へ食材を探しに行った帰りであった。

「驚きましたね。まさか、『ミスト・ビレッジ』に絶滅危惧種の『砂糖菓子の樹』があったなんて」
「しかも、『ミストコットンキャンディー』が砂糖菓子の木の樹液からできていたとはな」

砂糖キビの畑の傍のたった一本だけ、砂糖菓子でできた新芽が生えると何百年もの月日をかけて一本の白く美しい樹に成長する。
花も葉も枝も上質な上白糖でできており、その実は金平糖と言われているその樹は、あまりの脆さと儚さの故に絶滅したと思われていたがこの霧深き谷にひっそりと自生していたのだ。
その樹の樹液が枝から染み出し、この谷の気候が生み出す冷涼な気温と風が綿飴機の役割で樹液を綿飴にして、枝にはふわふわなミストコットンキャンディーができる。
天然の綿菓子はあまりにも繊細で触るのに苦労した、少しでも力を入れてしまえば砂糖菓子の樹ごと崩れてしまうからだ。
しかし、その苦労に見合うだけの美味がその純白眠っていた。

「それにしても、蕩けるような甘さと鼻に抜けるフローラルな香り。食べたら一瞬、少女漫画の世界に迷い込んだかと思いました」
「お前の顔が一瞬、少女漫画みたいな顔になったのは驚いたよ。別のキャラになったかと思った」
「けれど、あまり人には教えない方が良いですね。砂糖菓子の樹も、此処で静かにしていたいでしょうし」
「そうだな……っ!?」
「トリコさん?どうしました」

警察犬以上の嗅覚がナニかを嗅ぎ取った、『ミスト・ビレッジ』を抜けたこの森は行きも通ったのだがこの臭いには出会っていない。
自然のものではなく明らかに人工のもの、花やハーブの香りに交じって洗剤や柔軟剤の香り…そして、子供特有の“臭い”がする。
幼児は汗腺が未発達であり代謝も活発、そのため表皮からの臭いも口臭もほとんどない特有の臭いがするのだ。
何故立ち入り禁止の危険区域に幼児の臭いがする?しかも、その周りには人間のものではない“獣”の臭いまでする…つまり、トリコの鼻が嗅ぎ取ったのは、子供が獣に囲まれているのを意味していた。

「小松!」
「トリコさん!?ど、どうしたんですか?」
「子供がいる!」
「え、えええーーー!?」

哺乳類ではなく、哺乳“獣”類がはびこるこんな場所に一般人が足を踏み入れると言う事はある意味自殺だ、小松だって初期は遺書を書いてきた。
そんな場所にまだ年齢一桁の幼い子供(推定)がいる、急いで保護しなければとトリコは走り出し小松もそれを追う。
臭いの元はそんなに遠くない、泣き声でも聞こえて来ればもっと正確な位置を特定できるが、生憎地獄耳な誰かさんと比べれば耳は悪い。

「オーーーイ!誰かいるのか?!」
「誰かいるなら返事して下さい!!」
「っ!?」
「うわっ!?」

小松の首根っこを掴んで跳ぶと、明らかに2人を狙った攻撃が飛んで来る…青い球状の衝撃波、何だこの攻撃は?
更に息を着かせぬ追撃、小柄な小松ならば直ぐに吹き飛ばされそうな強い風が巻き起こったのだ。

「吹き飛ばそうってのか。喧嘩売ってるなら、買ってやるぜ!」
「ト、トリコさん、小さな子供がいるかもしれないんですよ…」
「ナイフ!」
「聞いてなーい!?」

飛ぶ斬撃、口に運ぶために食材を小さく切るナイフが飛んで攻撃の主を捕えたが、間に現れたバリアのような壁に防がれて通る事はなかった。
それがトリコの闘争心を更に刺激したらしい、その攻撃が飛び火して本来の目的である保護対象(推定)の子供が傷付いたらどうするのかと言う小松の焦りも右から左に受け流され、雨のようなナイフが降り注ぐ。
相手も姿は見えないが、森の木々に隠れながら動き回り時には攻撃を飛ばして己の身を守っていたが、攻撃を防いでいたバリアが不発に終わったのだ。

「ドブっ!?」
「捕まえたぜ…ん、思ったより小さいな」
「犬、でしょうか?」
「ドブルルルル…」

ナイフによって地面に縫い付けられたのは、ベレー帽を被ったような犬…しかし、その尻尾が絵筆のように毛が膨らんでいてしかも絵の具のような液体も滴っている。
一見すると、こんな小さな生き物があれだけ好戦的に歯向かって来たとは思えないが、地を這うような低い声でこちらを威嚇して来ているので明らかに敵と見なしているのだ。
彼は本来ならばこんなにも獰猛な種族ではない、得意ではない攻撃技を振るって飛び出して来たのはその背後に守るべき存在がいたから…。
背後かがガサガサと言う草むらの揺れる音で咄嗟に攻撃の態勢を取ったが、その音の主と言うのが子供の臭いの主でもあったのである。

「パレット!」
「プ…プク!」
「…こ、ども?」
「ドブ!」

ピンクのワンピースを着た黒髪の女の子と、その子を引っ張るピンクの兎のような生き物が、あまりにも場違いな危険区域にいたのだ。
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