Searcher本編

□03 Nurse (Student)
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Searcher〜Nurse (Student)



癒しの国・ライフ―――
傷を負った者、病に侵された者、美を求める者たちが集まる自然治癒大国であり、食の絶滅を防ぐ者・再生屋たちが集う国である。
ライフのシンボルであるマザーウッドは別名・食の宿屋、食材の再生を願う依頼人の声を聞き、滅びたくないとする食材たちの意志を届ける再生屋たちが集う場所だ。

「よう、鉄平。与作さんの“破戒場所”に女の子が入ったって聞いたぞ」
「マジか!?“血まみれの与作”に女の子の弟子とか…」
「いーや、弟子じゃないよ。ナース見習い」

と言うよりも、仕事内容を見れば家政婦に近いかもしれない…まあ、あの子が率先して働いてくれるのだけど。
美食屋では知らぬ者はいない、偉大なるノッキングマスターの血を引く者にして、これまた再生屋では知らぬ者はいない“血まみれ”の技術を受け継いだ再生屋・鉄平。
顔見知りの再生屋が言うように、確かに“破戒場所”とも呼ばれる師匠の再生所には女の子がいるが、弟子入りに来た子ではない。
正確に言えば…そう、とても正確に言えば拾ったのだ、鉄平が。

「ただいま〜っス」
「……っ!」

最近になって血飛沫が軽くなった再生所に鉄平が帰って来ると、小柄な女の子が物陰に隠れてしまう…しかし、彼女が抱き締めている黄色いアヒルの尻尾が見えているのだ。
頭隠して尻隠さず、大きな嘴と一緒に丸くて黄色いアヒルが顔を出した。

「ぐあー」
「あーあ、フォンリーちゃんはまた隠れたのか。出ておいで〜」
「て、鉄平さん…ごめんなさい、ビックリしました」
「あー…まだ大きい人には慣れないか」

物陰から顔を出したお団子頭、びくびくした声色で小さく頷いた。
グルメ細胞のせいか、それとも食べる物が良すぎるのか、グルメ時代に生きて食材に関わる者たちは大柄な者が多い…美食屋然り、料理人然り。
勿論再生屋も、鉄平だって190cm近いがもっと大きい奴もいる、美食四天王とか。
そんな大きな人たちに、目の前の少女は慣れていないらしい。
大きな影が現れると驚いて隠れてしまうのだが、こんな風にビクビクされてしまうと妙〜な罪悪感を覚えてしまう。
彼女の名前はフォンリー、ナース見習いであり拾い者だ。
何故この再生所にいるのか、原因は5日前に遡る…。



以下、回想



彼女を拾ったのは、赤と青の『バラフライセラピー』たちが飛び交う『癒しの森』であった。
『クスリバチ』を獲りにこの森へやって来た鉄平だったが、此処で人の気配を感じた…美食屋や再生屋とは違う、強いて言えば一般人の気配だ。
大方、治療やエステに来た人間が面白半分に森へ足を踏み入れ、帰れなくなったのだろうと思った。
背中に感じる弱々しい視線を知れば誰でもそう思うだろう、木陰に隠れて真後ろにいる小柄な視線を受ければ…。

「……」
「…あ、あの」
「ワタシ、知らない内にこの森に迷い込んで。出口、知っていますですか?」
「……」
「……あの」
「口は災いの元だ。口から出れば出るほど、その言葉は軽くなる」
「…はあ」
「まあ実際は、何で君みたいな女の子が1人で森にいるかっちゅー疑問なんだけどね。前に面白半分のピクニック気分で来たアホなカップルなんか、遭難しかけてエステに来たのに治療されて帰って行って消滅したとか聞いたけど、その時は彼氏いい気味だー!とか思ったけど、実際再生屋や美食屋しか出入りしない森に一般人いたらビビるからなー」
「……」

口は災いの元、不用意な事を言ってしまわないように無駄口を叩かない方が良いかもしれないが…目の前の青年は、めっちゃ喋った。
知らない内に見知らぬ森、しかも見た事のない虫たちが大量にいて怖い。
怖いと言うのは、その虫たちが怖いのではなく道理を知らないから怖いのだ…無知とは罪ではない、恐怖である。

「で、知らない内に迷い込んだ?」
「ハ、ハイ…ワタシ、コダマタウンのフォンリー言います。ナースになるために、見習いとして旅、してます」
「フォンリーちゃん、か。オレはこの先の『ライフ』再生屋の鉄平だ」
「サイセイヤ…何ですか?ライフと言う町、聞いた事ありませんです」
「…え?」

グルメ時代で再生屋を知らぬ者は…まあ、美食屋よりは知名度が低いかもしれないけれど、あまりいないだろう。
だけど目の前の少女は知らなかった。
お団子頭でチャイナ服、何かに押されるようにして木陰から出て来た少女は…何だか小動物みたいだと錯覚してしまう。
そして、彼女を押して木陰から出したであろう存在が姿を見せると、今度は鉄平が驚く番だった。

「キリ」
「そいつは…」
「?こ、この子はワタシのポケモン、キリンリキのチャウチン言います。キリンリキ、初めて見ますか?」
『初めて見る、なんてもんじゃない』

見た目はキリン、だけど尻尾がかなり特徴的だった。
黒くて顔のある尻尾、しかも頭がこちらを向いているのに、あちらにも別の意志があるように視線が動いている…つまりは、尻尾には本体とは別の意志があるのだ。
キリンリキの尻尾には小さな脳がある、それは“彼ら”に付いて少しだけ知識のある者ならば知っている事だろう。
だけど鉄平は知らなかった、優秀な再生屋である彼も知らない…否、このグルメ世界に生きる者ならば、知る事はない存在。
次元の壁を超えた世界に生きる生物、ポケットモンスター――縮めて、ポケモン。
そんな存在を連れた少女・フォンリーがココに現れたのは、まだ誰も知らない壮絶なる鬼ごっこのためである。
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