Searcher本編

□05 Hacker
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Searcher〜Hacker



以前、カントー地方ヤマブキシティでとある事件が起こった。
同都市を騒がせていた連続強盗事件ではなく、その事件の終結を知らせる記者会見の直ぐ後の出来事…品性方向で真面目実直を体現したようなヤマブキ警察署署長が、大捕物の末に逮捕されたのだ。
その罪状とは、違法献金・少女買春・賄賂・汚職ととりあえず公職にはあるまじきもののオンパレードであり、逃亡を図った際に一般人を突き飛ばして怪我を負わせてもいた。
ガーディと元部下に取り押さえられた時は、さっきまでテレビに映っていたキレイなイメージとは真逆に散々抵抗して、その日の夕方には副署長が謝罪の記者会見を開いたのだ。
何故、巧妙に隠蔽し誰も気付く事のなかった悪事が白日の下に曝されたのか?
それは、ヤマブキ警察署内全てのパソコンに送られて来た一通のメールが原因だった。
送信先不明のそのメールはご丁寧に白い箱に詰められてリボンのラッピングがされたアイコンと共にやって来て、システムを起動する前に自らリボンを解いて勝手に中身をぶちまけたのだ。
小さな箱に詰められていた物によって備品のパソコンが侵略される、画面に次々と雪崩れ込んで来たのは、違法献金の裏帳簿に賄賂の受け渡し場所として使われたホテルの領収書やら、そして絶対にR‐18指定される大量の写真だった。
その写真の中で最も容量を占めていた写真は、縄で縛られた全裸の女性に馬乗りになり、マヌケにピースサインを決めている署長…婦警の悲鳴と共に、悪事が明らかになったのだ。

実はヤマブキ警察署だけではなく、テレビや新聞などのメディアにも送られていたこのメール、出所は一体どこかと聞かれれば元署長の私用パソコンのファルダからだろう。
しかし、いくら元署長がアホでも自らの罪を流出させるほど馬鹿ではないし、メールに添付されていたデータの中にはホテルの高級ホテルの顧客データも含まれていた。
つまりはクラッキングされたのだ、インターネットを経由して個人や企業のパソコンに侵入してデータを盗み取り、白日の下に曝した…いくら隠れていた罪を暴いても、これは犯罪行為である。
ヤマブキ警察のサイバー犯罪対策課は元署長のパソコンを押収し、クラッカーの足取りを掴もうとしたが手掛かりも何も見付からず、かろうじて解ったのは人工ポケモンであるポリゴン系統がネットワーク経由で侵入した事だけであった。
電脳空間を行き来するポリゴンの形跡と、クラッカー自身の痕跡は欠片も残さない愉快犯のような暴露事件…サイバー犯罪対策課は、似たような事件がカントー地方のみならず世界中で数件起きている事に気付く。
大げさなパフォーマンスのような暴露とクラッキングの腕だけ見れば派手な大立ち回りのようだが、輪郭だけを臭わせて足跡一つ残さずに消えるその姿を見ると煙に巻かれたようだ。
ハッカーとはコンピューター技術のプロフェッショナル、クラッカーとは悪意を持ってデータを破壊・改竄する者を言う。
最高レベルのハッカーは『ウィザード』と呼ばれるが、この事件を起こしたクラッカーは、その技術だけを見れば文句の付けようのないウィザードである…捜査で解った事は、それだけであった。







***







プラズマポケモン・ロトムは珍しいポケモンであるだけではなく、その身体の構造が研究者たちの間で注目されている。
分類名の通りその身体は霊体プラズマに近く、様々な電化製品の内部に忍び込んで身体とし姿を変えるフォルムチェンジをすると言う、一風変わったポケモンなのだ。
で、何でシランが珍しいはずのロトムに詳しいかと言うと、数年前、旅の途中でロトムを専門とする研究者と出会い話を聞いて、当時持っていたポケモン図鑑でデータを確認したからである。
テレビに潜り込み、電波やケーブルを通って移動する事も確認されているロトムは、当然パソコンの中からネットワークに侵入する事もできるだろう。
今回のクラッキングは、コロシアムのモニターに映ったロトムも関わっている。
関わっているイコール、ロトムのトレーナーが第1ビオトープをサイバー攻撃した可能性が高い。

「シラン、あの小さいのが“ポケモン”なら、お前らに任せる」
「任されました。このチャンスを、逃しませんよ」

グルメ世界に存在しないはずのポケモンが姿を現した、これはまたとないチャンスかもしれない…あのロトムと背後にいる人間が、シランとノバラの身に起きている現状を知るための手がかりを握っているかもしれないのだ。
『グルメコロシアム』に設置されている監視カメラ、完全に乗っ取られて録画分の動画を流出させた後は特に興味を持たなかったが、観客席から飛び込んで来た優男とフワライドの姿に視線が止まる。
妙な空間で妙な登場で、自分に行方不明になったポケモンの捜索を押し付けようとした自称・神共を思い出す…。
そうか、自分だけではなかったのだ、神と名乗った正体も解らないポケモンたちに巻き込まれたのは。

「災難だったな。恨むなら、神を恨め」

だが、お前がポケモントレーナーとして立ち塞がるならば、自分なりに相手をしてやろう。
咥えていた煙草の灰を落とし、紫煙を吐き出す…もう何カートンを空けたか忘れた、だけど相当の量であると言う事は吸殻の山となっている灰皿が物語っている。

「ロトム、遊んでやれ」
『ロットー♪』

スピーカー越しに聞こえたその返事は、すこぶる愉快そうな声色であった。
それと同時に、シランにもスピーカー越しの声が聞こえていた…第1ビオトープにサイバー攻撃を仕掛けたクラッカーであり、ロトムのトレーナーであるカラーの声が。
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