Searcher本編

□06 Hunt
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Searcher〜Hunt



此処で一旦、時間軸は第1ビオトープサイバー攻撃事件の前日に遡る。
2人のポケモントレーナー、同じ世界に生まれポケモンと共に生きると言う共通点を持ったが、敵対すると言う数奇な運命に身を委ねる事になった男たちの知らぬところでもう1人―――
彼らの知らぬもう1人の存在、ナース見習いであるフォンリーが居を置いている癒しの国・ライフの与作の再生所に、見慣れたお客がやって来た。

「与作〜…いねえし!」
「サニー?また『アース』の事訊きに来たの?」
「今日は違えし」

明らかに美肌効果のある浴場に行って来たと言わんばかりのラフな格好、オマケに持っているのは『キューティクルベリー』の果汁を使った苺牛乳…明らかに風呂上りだ。
ライフの常連にして与作の知る美食神・アカシアのフルコースの一つ、『アース』を狙う四天王の1人、サニーが再生所にやって来た。
誰かさんに言わせてみれば、四天王一の偏食家がこの国に来るのは美容のため、再生所に来るのはグルメ界へ入るための実力を求めてだ。
と言う事で、鉄平ともよく顔を合わせるサニーだったが、大抵は下品に血飛沫で染まっている壁が随分と綺麗になっている事に気付く。
“血塗れ”の与作の再生所なのに、最近のこの一室は血飛沫が掃除されて本来の地肌が見えている…それもこれも、ちょこまかと働いてくれるナース(見習い)のお陰だ。

「師匠なら、さっき麻雀しに行ったけど」
「麻雀とかオヤジ度MAX!昼間っから打ってんのかよ!?」
「いや、恐らく打ちに行ったのは…」

ぶっちゃけ、ライフのあちらこちらでは麻雀やら将棋やら囲碁やら、軒先感覚でボードゲームをしているオヤジたちが多い。
ライフホスピタルのみならず、あちこちの病院に入院していたり治療のために訪れている者たちが多いが、身体を動かす事もできないし騒がしい娯楽もない。
なので自然にボードゲームに落ち着く、一般の病院で老人はボードゲームで遊んで子供はカードゲームで遊ぶ…場所や治療内容は違えど、大体その流れになるのだ。
で、サニーが用のある与作はと言うと麻雀を打ちに行った。
詳しく言うと、実際に牌を手に持って打つのは彼ではないけれど…。

「今度こそ、リーチ!」
「ご、ごめんなさい…ロンです」
「ま・た・か!」
「ちょっと待てい…純正九連宝燈ダブル役満だとっ!?」
「しかもリーチ一発?!」
「す、すいませんです」
「むがっはっはっはっ!いや〜また勝たせてもらって悪いね〜」

開かれた牌は、数字だけが綺麗に並んだ滅多にお目にかかれないダブル役満…自信満々に点棒を出したオヤジが頭を抱えて点数が振り込まれる、しかもこの局は彼女が親だった。
オッサン3人に囲まれて南のテーブルに座っている、あまりにも場違いな小柄の少女であるが、さっきから彼女しか勝っていない。
彼女がロンやらツモやら言う度に、オッサンたちの懐には『アイスヘル』の極寒の風が吹きすさび、与作の財布は潤い100%となるのであった。
あ、ちなみに賭けているのは金銭ではなく、葉巻樹などの嗜好品を始めとした食材です。
大丈夫、合法合法。

「な、何だこのお嬢ちゃん…?さっきから全然勝たせてくれない…」
「畜生!代打OKなんて言わなければ良かった…」
「考えてもみろ、お嬢ちゃんがこんな雀士だと思わないだろ」
「そんなルールがあるなら破るしかない!」
「あ、あの…本当にごめんなさいです」

与作の高笑いに謝る少女、相変わらずのお団子頭がオロオロと台から落ちた牌をかき集めていた。
確かに、麻雀なんて煙草を咥えて缶ビールを飲んでいるオヤジのゲームと言うイメージが強い(?)ため、フォンリーのような小柄な少女がマスターしているなんて思いもしないだろう。
しかもめっちゃ強い、コンピューター対戦の『最強』レベルと対戦しているような感覚さえ覚える強さであった。
おどおどオロオロしている小さな手が牌を握る様子からは想像ができないくらい強い。
普段が巻き込まれ型不運の気質がある分、フォンリーの幸運は全て麻雀に向いているのではないかと思うぐらい、彼女の幸運は端的なのだ。

「じゃ、この間の呑みはおごりで!」
「ぐぬぬぬぬ…」
「お嬢ちゃん、いつかリベンジするぞ!」
「は、はい」
「師匠、またフォンリーちゃんで荒稼ぎしてんすか?」
「おお鉄平!見ろ、ボロ儲け!サニーもいたのか」
「やっぱりきしょい!オヤジ度MAX120%!暗くてジメジメしたオヤジの遊び!」

まあ、麻雀にサニーの言っているようなイメージがあるのは否めないが、実は相当頭を使うゲームである。
捨てる牌から他の3人が作ろうとしている役を予測し、どの牌を待っているのか、どれを捨てては駄目かを見極める観察眼が必要だけではなく点数計算も覚えるまで複雑だ。
頭の回転が速い人は麻雀が強いとは聞くが、ビビりで臆病なこの少女は端的な幸運を持っているだけではなく、頭の回転も速いのだ。

「で、今回は何をしに来たんだ?サニー」
「『鶴貝』の場所、知ってるだろ」

その貝を目にしたら、自然の神秘と美しさを詰め込んだと感じるだろう…純白の貝殻を持つその姿は正に、雪原に佇む美しい鶴の如き美しさ。
鶴は千年、亀は万年、その諺に肖り長寿を願ってその貝を贈ったとの記述はあるが、それはかつての貴族や位の高い者に限られていたためにその希少さが伺える。
強さではなく見付けるのが困難な事から付けられた捕獲レベルは57、それが、サニーが一龍会長から出された修行食材であった。
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