Searcher本編

□09 Symphonic Lily
1ページ/7ページ

Searcher〜Symphonic Lily



IGO本部…海に浮かぶその建物を真上から見れば巨大な御膳に見えると言われているのだが、世界中の食材の流通を監視・統制する組織の本部である。
この組織のトップであり、美食四天王の育ての親である一龍会長となればその名を知らぬ者はいない。
今日も今日とて、分刻みのスケジュールに苦言をする会長の元へ様々な書類や各国の要人からの電話が鳴り響く。

「会長、『奏の遺跡』の管理者ヘオン・トオン氏がお見えになっています」
「後にしろ、ワシャ忙しい!」
「でも、以前からアポを取っていたと…」
「え、取ってたっけ?」
「会長…」

スケジュール帳を見てみたら確かにアポを取っていた、なので忙しい仕事を脇に置いて面会を済ませなければならない。
『奏の遺跡』…それは、人間界に足跡を遺す遥か昔の古代文明の残り香である。
かつてはグルメ貴族たちがその地で芸術と食を楽しんだ、都市一つが全て劇場とされている歓楽都市の跡地を総称して“遺跡”と呼ばれているのだ。
未だに謎が多く、かつての巨匠たちが遺した作品が出土したり時には時には遊び心を詰め込んだパズルのような仕掛けも発見される。

「しかし、近年観光地化したため、発掘作業が遅れに遅れ…先日、高名なグルメ考古学者をお招きしたのですが、あの遺跡のどこかに隠されていると言う『シンフォニック・リリー』が最早、寿命かもしれないと」
「音楽と美食の甘露花『シンフォニック・リリー』か。確かに、このまま枯れさせて全滅させるのは惜しい食材じゃ」
「そこで、IGOのお手を借りたいのです。『シンフォニック・リリー』が発見されれば、『奏の遺跡』の歴史調査だけではなく現代の食の進歩にも繋がります!」
「そうじゃの…おい、四天王の修行はどこまで進んでいる?」
「4人とも、既に半分以上をクリアしています」
「そうか…なら、4人揃って食卓に着いてもわらんとな」
「一龍会長?」
「この案件、美食四天王に任せる」

後日、世界中に散る美食四天王へ一龍会長直々の依頼が届く…全員、『奏の遺跡』に集合せよと。







***






『Café Missing Man』臨時店へ年代物の蓄音機がやって来た、勿論レコードをセットして針を乗せれば往年の名曲が流れる現役の物だ。
お店に通って下さる骨董品店のオーナーが、歳だから店を畳む事になり、レコードや替えの針を含めて譲って下さったのである。
音楽プレイヤーとは違う、どこか厚みのあるレトロな響きの音を奏でる老人は店内の時間をゆったりと、それでいて心地よいものへと変貌させてくれた。

「どうぞ、新メニューの『ハニートースト』です。パンは、このホテルの3階の『ベーカリー・サンライズ』のを使用しています。『シルク蜂蜜』をかけてお召し上がり下さい」
「来た来た!いただきます!」
「サインライズさんのパンは、うちのレストランでも発注しています。本当に美味しいですよね〜」

普通の食パンよりも耳がサクサクしているのだが、中の生地は綿のようにふわふわでいくらでも食べられると評判の食パンなので、少しボリュームがあるハニートーストでもペロリと食べられる。
こちらのミニVer.をノバラに作ってあげたら、それを見ていた従業員さんたちにもせがまれて賄として提供するようになり、いつの間にか口コミで広がってしまいこの度メニューに加わった。
普通のハニートーストよりも小さめのサイズで提供する予定であるが、トリコには特別に食パン一斤で作ってみました…なんちゃって裏メニューです。

「ハニートースト美味っ!ノバラが言っていた通りだな」
「でしょ!マスターのハニートーストは、本当に絶品なんですよ!どうぞ、本日のオリジナルブレンドはユーカリベースです」
「ありがとうございます山都さん。休憩に入っても良いですよ」
「はい、それじゃあ休ませて頂きます」
「……シランさん、あれからノバラちゃんのお母さんの事は解りましたか?」
「それが、全然」

ハニートーストが外部に漏れる一因(?)である従業員(山都:女子短大卒)が奥に下がると、声のボリュームを控えめにした内緒の話が始まった。
先日訪れた『界立グルメ博物館』において、世界的に有名な『戦火の聖母』がシランの親友でありノバラの実母であるミサカの作品である事が発覚した。
だとしたら、一時期行方不明者となっていたミサカはこのグルメ世界に足跡を残した事になる…それを調べ始めたシランであったが、如何せん資料が少なすぎたのだ。
『戦火の聖母』は作者不明であり出所さえも不明、書かれた時期が約500年前の戦争の真っただ中と言う事しか解っていないのである。
件の絵画の研究書を読んでも何もかも不明、学説などを読んでもミサカに繋がる気配を見えず…早速、壁にぶち当たったのだった。

「あわよくば、ノバラの血縁上の父親も解るかと思ったんですけど…」
「やっぱり、知りたいのか?」
「はい。一発ぶん殴ります…いや、十発とか」
「穏やかなシランさんから意外すぎる発言出たー!?何か、手がかりとかないんですか?」
「手がかりですか…」

と言っても、その実の父親とミサカの血を受け継いだノバラの外見は100%母親似だ…本当、成長を重ねる毎に彼女に瓜二つに成長している。
血液型も、ミサカはAB型でありノバラはA型、特別なものでもなく父親の血液型を断定もできない。
全く鱗片が見えないのだ、ミサカが愛した男性の鱗片が。

「ただ、一つだけ可能性がある事……ミサカの髪は山吹色でした」
「でも、ノバラちゃんは黒髪」
「はい、ノバラの血縁上の父親は黒髪の可能性が高いです」

それもまた、雲を掴むような曖昧すぎる手がかりだ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ