Searcher本編

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ランチタイムがひと段落付いて、満腹中枢が刺激された事によるうつらうつらとした睡魔が襲って来る昼過ぎの時間帯。
『Café Missing Man』臨時店でも、『ホテルグルメ』に入る一流店のお得なランチで胃袋を喜ばせた人々が、ハーブティーの香りと共に仮眠や読書など各々リラックスタイムを満喫している。
本日のオススメはセージをメインにした一杯、すっきりとした香りとマイルドな味は優雅な午後を過ごすお供にピッタリだ。

「あーー!痛い痛い!」
「肩甲骨が張っているわね〜厨房に立ちすぎじゃないの、小松シェフ?」
「まあ、最近ずっと忙しかったもので」
「あんまり酷いようだったら整体や鍼に行った方が良いわ」
「あ、ははは…」
「小松さん、厚司さん、お替わりはいかがですか?」

新しくカフェの常連へと加わったマッサージ師の厚司ことあっちゃん(恋愛対象は女性なおネェ)によると、包丁を握って厨房に立つ時間が長いために小松の肩から背中にかけてバッキバキとの事。
オフの時は思いっ切り乙女な素を出している彼女(?)だがマッサージ師としての腕は確かであり、少し施術してもらっただけで背中の痛みが軽くなった。

「マスターもどう?立ち仕事は腰や背中に悪いわよ」
「時間がある時に是非お願いします。どうぞ、ローズヒップティーです」
「ありがとう。そうだ聞いてよ〜この間合コン行ったら、気になる女の子がいてね。素を出してみたらどん引かれちゃったのよ〜!」
「厚司さんみたいなイケメンが、女言葉を使ったら驚きますって」
「私は好きですよ。自分に素直で明るいのが、厚司さんの素敵なところですから」
「マスター…!アタシがゲイだったら、今ので惚れてた〜あとあっちゃんって呼んで」

今日も今日とて、悩みや鬱憤を抱えた人々がフラりとこのカフェに訪れると、シランの独特な空気によってそれらがやんわりと消えてしまう。
爽やかだけど嫌味ではない、それもこれもシランが淹れるハーブティーの香りと味、そしてその温もりで癒されるのだ。

「あら、アタシの休憩時間終わっちゃう。じゃあねマスター。小松シェフも、今度うちのお店にもいらっしゃい。しっかりと揉み解してあ・げ・る」
「またのお越しをお待ちしております」

特徴的な猫目でウィンクをしながら勘定を済ませたあっちゃんと入れ違いに、カフェの入口が開いて来客を告げ鈴が鳴る。
その巨大な体躯には小さな入口を通るために頭を下げてやって来た常連さんに、シランは再び穏やかな笑みを浮かべて歓迎した。

「いらっしゃいませ、トリコさん」
「本物のトリコ!?やーん写真とかよりずっと男前!それじゃ、今度こそじゃあねマスター」
「…誰だあいつ?」
「同じ階のマッサージ店の厚司さんです。所謂おネェな人なんですよ」
「良い人ですよ、ノバラとも仲良しなんです。トリコさんは、おすすめよろしいですか?」
「ああ、頼む。それと…今日来たのは、こいつを見てもらいたくてな」
「はい」

ブレンドしたハーブをホッドに入れてお湯を注ぎ、砂時計をひっくり返して抽出する。
その間にトリコが差し出した一枚の写真を手に取ったシランは、それに写っていたモノに驚いた…写真に写っているのは、険しい山の一部分がアップに解析された物。
普通ならばじっくりと目を凝らさなければ解らないくらい小さく写っているのだろう、猫の後ろ姿に似た桃色の頭が山間に紛れて写り込んでいるのだ。

「以前、ポケモン図鑑とやらで見せてもらった“ミュウ”の姿…後ろ姿だが、似てねえか?」
「確かに、似ていますね」
「“ミュウ”………正直、すっかり忘れていました!」
「良いんですかそれでー!?」
「忘れんなよ…」

当初はこの世界にいると言う“ミュウ”を捜す事を目標としていたが、親友でありノバラの実母であるミサカの足跡を見付けてからはシランの捜索対象は“ミュウ”からミサカになった。
なので、彼女の足跡を捜してはいたが“ミュウ”を捜すのをすっかり忘れていたのでした。
ちなみに、捜索に関するシランの優先順位は、“ミュウ”<<<ミサカ≦ノバラ、と、こんな感じである。
この間、ノバラも捜さなくてはいけなくて大変でした。
エプロンのポケットに入れているポケモン図鑑を起動し、151のb持つポケモンの姿を映し出す。
桃色の胎児にも見えるし遠目からは猫にも見える、“ミュウ”の姿と写真を見比べてみると確かに相似点があるのだ。

「この写真の場所は?」
「歯並びの悪い山脈とも呼ばれる『トゥース山脈』。危険区域って訳でもねえが、ポイントによっては捕獲レベルの高い猛獣も出現する場所だ。トムにジェット機を飛ばしてもらえば2、3時間ってところか」
「『トゥース山脈』…行ってみる価値はありそうですね」

この写真は最近撮られたものらしい、ならばこの写真に写っている生物がその場にいる可能性も十分にある。
元々シランを始めとしたポケモントレーナーたちは(正確に言えば、シランではなくノバラとその他)、“ミュウ”を捜すためにグルメ世界へ落とされた。
最近すっかり忘れていたが、手がかりがある以上捜索を開始しよう…が、シランには一つ問題があったのだ。

「お店は従業員の皆さんに任せるとして、流石にノバラを連れて行く訳には…」
「日帰りって訳にも行かねえからな」

託児所は最大で半日、何日も現地で捜索する可能性もあるのし下手すれば猛獣もいる、まだ4歳のノバラを同行させるには厳しいのだ。
ならば誰かに預かってもらうとなると、どちら様に頼めば良いのやら…考え込んだシランだったが、噂をすればの影、ノバラが託児所を抜け出してカフェにやって来た。

「おとーさん!」
「ノバラ、また抜け出して」
「おとーさん、えりるちゃんのうちにおとまりしても良い?ノバラと、ルイミちゃんとえりるちゃんでおとまり会するの!」
「お泊り会?」
「うん!みんなでじょし会するの」

愛稟琉ちゃんの家に女の子だけでお泊り会をする事を提案され、父に同意を求めて託児所から抜け出して来たらしい。
何て良いタイミング…それでは、『トゥース山脈』に“ミュウ”を捜索しに行こうか。







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