Searcher本編

□17 Battle!!
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Searcher〜Battle!!



空は快晴、時々心地良いそよ風が吹く本日は、絶好のピクニック日和とティナがキャスターを務めるグルメニュースの天気予報が報じていた。
しかし、それと同時に一部の地域にはゼブラが出現すると言う『ゼブラ予報』が報じられてしまい、その地域でピクニックの予定だった者たちは急遽予定を延期。
なので、ピクニックに最適な花咲く草原『フラワーパーク』は、彼ら意外の人がおらず貸切り状態であった。

「で、何でゼブラがいんだよ!おま『ヴィーナスの涙』の狩りに参加してネじゃねぇか!!」
「まあまあ、ピクニックはみんなで行った方が楽しいですよ」
「ね〜」
「ね〜」
「フン、俺は小僧のメシを喰いに来ただけだ。テメェらとじゃれ合うつもりはねぇ」
「って、言っている傍から涎すげぇぞ…」
「ウチはトリコがいればそれで良いし〜」

『深海の階層』での『ヴィーナスの涙』を巡る攻防戦から数日、コダックの活躍(?)で無事に涙を手中に収める事はできた。
しかし、『美食會』によって『深海の階層』は崩壊され、人間界では二度と手に入る事はなくなってしまったけれど。
本日は、『ヴィーナスの涙』の実食を兼ねたピクニックなのだが…人は多い方が楽しいと言う事で、四天王の中で唯一、IGOの依頼を突っ撥ねたゼブラを小松が呼んだのである。
料理をたくさん詰めた重箱を手に、ノバラと顔を見合わせて笑うその顔は双方とても楽しそうだ。

「フォンリーちゃん、ゼブラは見た目しか恐くないから出て来なさい」
「見た目“しか”ですか…」
「ハ、ハイ…!」
「君とヤーが今回の功労者なんだから」

前回『奏の遺跡』で会った時恐かったので、ビビりが発動したフォンリーがシランの後ろに隠れていたが引っ張り出されてしまった。
『深海の階層』で遭遇した、3人目のポケモントレーナー――ハッカーと敵対する事を選び、ビビりのナース見習いが一歩前に踏み出し始めた。
その事をシランに伝えると、彼は優しくも爽やかな笑顔で頭を撫でただけで何も言わなかった…自分が進む道を黙って見守ってくれる、“父親”を感じたのはやはりシランがおとーさんだからだろう。
頭に乗せられたしっかりとした手に、しばらく会っていない父を想い出した。

「そう言えば、『ヴィーナスの涙』は結局、どんな食材だったんですか?解毒食材と聞きましたが」
「はい、『ヴィーナスの涙』の正体…それは、岩塩です」
「岩塩!塩ですか」
「お塩?」

ただの食塩――塩化ナトリウムとは違う、天然のミネラルと何世紀もの旨味を含む岩塩は、海の恵みである“塩”本来の効能を持っている。
それらは、新陳代謝の向上や身体を温めるのみならず、免疫力アップや殺菌作用が主な働きだ。
『ヴィーナスの涙』はただ純粋に、塩の持つ本来の効能が通常の岩塩の何千倍も秘めていると言う食材だった。

「漬物を始めとした保存食に塩は欠かせねえ。普通の塩の何千倍もの殺菌作用が、毒をも解毒する“解毒食材”って事なんだろうな」
「オマケに、ミネラル吸収と保湿効果がパネェとんでもネバスソルトができたし。一回のスクラブで肌がパネェから!」
「お兄ちゃん、ウチも欲しいし!」

あの時、ゴウカザルの炎で『ヴィーナスの涙』が温かい光を発したのは、岩塩ランプと同じ原理だったのだろう。
食べて体内の老廃物を解毒するだけではなく、肌に塗り込んでも良い…塩は解毒食材の名に相応しい、海からやって来た食材だったのだ。

「古い料理書には、『塩は食肴の将、酒は百薬の長』と言います。塩本来の旨味を味わうには、シンプルが一番」
「おにぎり!なかみはなに?」
「ただの塩むすびです。普通のお米ですが…どうぞ、食べてみて下さい」

宝石のように美しく輝く岩塩を砕き、小松によって一つ一つ丁寧に握られたおにぎりに塩をほんの少しだけ。
女神の名前にしてはあまりにも地味な調理であるが、これが最も美味しい食べ方であると小松は確信していた。
様々な美しい花々が咲き乱れる『フラワーパーク』の一等地にピクニックシートを敷き、大量のおにぎりが詰められた重箱だけではなく、その他大量のおかずも並べられる。
それでは、この世の全ての食材に感謝を込めて。

「いただきます!」×みんな

大きく口を開けておにぎりを一口…すると、その場にいた全員が目を見開いた。
小松の話では、この米は普通の、近所のスーパーにて平均的市場価格で売られている普通の米だと言っていた。
だが、このおにぎりの味は“普通”では言い表せない…米本来の甘みと旨味、『極楽米』や『漆黒米』の更に上に行く味を出しているのだ。
これも全て軽く振りかけられた『ヴィーナスの涙』のお陰、米を咀嚼して飲み込んだその一瞬に、美しい女神の微笑が見えたのは気のせいではない。

「まいっ!!」
「お、美味しい〜!」
「ただのお米が、これほどまでの旨味を出すとは」
「どんどん出せ小僧!」
「って、もうねぇし!」
「美味しい。ノバラ、どう…ノバラ?」

子供には少々味気のない塩むすびを一口食べたノバラだったが、誰よりも大きく目を見開いてしばらく静止したと思ったら、小さな手に持っていたおにぎりを一気に口に詰め込んだ。
これまた小さな口に全部詰め込んで、柔らかい両頬を小動物の頬袋のように膨らませると一生懸命咀嚼を繰り返し、口の中のものを飲み込むと一言こう言った。

「おいひい!」
「っ、そうか。ほら、いっぱい食べな」
「おかずもあるぞ。どんどん食え」

語彙少ない彼女が精一杯告げた「美味しい」一言は、何事にも代えられぬ最大の賛辞であったのだ。
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