POKEBASA本編そのB

□64 本能寺、桔梗戦
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POKEBASA〜本能寺、桔梗戦



京の都を流れる桂川の源流近く、愛宕山。
その山に祀られるは『古事記』の女神・イザナミや、その女神を死に至らしめた火の神・ヒノカグツチなどの著名な神々。
それに転じてか、古来より火伏の信仰を得ているその愛宕神社では2人の男が視線も合わせずに小さく言葉を交わしていた。
片や、笠を深く被り顔がよく見えない男…しかし、その身のこなしは隙がなく身形は小奇麗で、それなりの地位のある者である事を悟らせる。
愛宕山のおみくじを面白半分で引き…あまり良くない結果であったので、もう1回。
そして…その男から距離を置いてその場に佇んでいるのは柳、否、柳の葉のようにユラリと揺れる細い身体と薄い色素の長い髪…。

「さて、御心はお決まりになられましたでしょうか…明智殿」
「……」

決して男とは視線を交わさずにユラリと動く細い身体、死者のように白く生気のない肌…それが、太陽を隠す分厚いに雲によって薄暗くなっている周囲の色彩に目立つ。
桔梗の御旗を掲げる織田軍が1人、明智光秀…その人であったのだ。

「…まさか、信長公が魔獣使いによる襲撃を受けていたとは。何処にも情報を漏らしてはいなかったようですが、貴殿は知っていたのでは?」
「さて、どうでしょうか…」
「“あの御方”は大層御心を痛めておりました。我らに良くして下さる信長公が地に伏せられるとは……」

決して、顔も視線も合わせずに、身体の向きさえも合わせない2人の男の会話は淡々と進んで行く。
鍵を何重にもかけて、織田内部にさえも伝わりはしなかった厳禁情報をその男は知り得ていた。
笠に隠れた顔の表情を読む事は出来ないが、その声色は憂いているのか…それとも、心の底では嘲笑っているのか。

「フフフフフ…では、どうするおつもりですか?織田とは、手をお切りに?」
「いいえ、流石に…信長公は我々の“協力者”ですから。信長公が我々の敵になってしまえば、“あの御方”は心労で床に伏せてしまうやもしれません…。嗚呼、お労しや」

一々言動が大げさだ、身振り手振りが横に縦に動き回りその様子には品が無い。
しかし、この男の発言権は“あの場”では大きな意味と力を持ち、彼の決定でこの日ノ本が大きく動く可能性は高いのだ。
では、本日この場に呼び出したのはその“決定”を下しに来たのか…?
2回目のおみくじも良い結果が出なかったらしい、まさかの3回目を引きにかかっている。

「そこで、敵になる前にご退場を願えれば…“あの御方”の心労を消えるでしょう。そろそろ、ご隠居なさりたいと申しておりましたから」
「おやおや、新しい世にするおつもりですか?信長公が目指す、新しい世を拝む前に」
「信長公の目指す新しい世には、“あの御方”はおりません」

困っているのだ、“彼ら”の存在を無に還そうとするあの魔王には。
何のために、千年以上の年月をかけて地位を築いたのか…それは全て、この日ノ本と言う国を平和に穏便に美しく統一するためだ。
壊させはしない、古来の神々に…“あの御方”の先祖に誓って、そんな事は許されない。
三度目の正直で良い結果のおみくじが出たらしい。
今まで視線すら合わせなかった2人の間で、そのおみくじが引き渡される…嗚呼、確かに良い結果だ、今動けば最良の結果が出ると…。

「信長公は、少数の兵を率いて本能寺に陣を張ります」
「なら…絶好の機会ではないですか。敵は、本能寺にありと言ったようなものだ」
「フフフフフ…クハハハハハハハハハハハ!遂に、遂にですか…この日を待ち侘びましたよ、ねえ、信長公―――」

貴方をぐちゃぐちゃにして美しい純白の骨を拝む事が出来たなら、どんなに陶酔するだろう、気持ちが良いだろう…。
頭から足の先まで、綺麗に…食べ尽くして差し上げましょう。







***







鳴る…軽快な音を立てて、ポケギアから音が鳴る。

「…やっぱりポケギアが使えるって便利だな」
「シャワ」

モノクロカラーのポケギアのディスプレイに映る文字は『レイシ』、そしてバリ3でしっかり立っている電波状況である。
戦国世界とポケモン世界の時間の流れが同じなったお陰か、こうしてポケギア同士であれば通話もメールのやり取りも可能となっていたのだ。
勿論タウンマップやラジオ機能は使えないが、日ノ本の連絡手段である手紙のやり取りよるずっと早く連絡の交換が出来る。
だからこうして、ヒナギクのポケギアにレイシからの連絡が入るのだ。

「もしもし、どうしたレイシ?」
『ヒナギさん…今から京に来れる?』
「……?」

何があったのか?
かなり久しぶりであるポケギアでの通話を続ける捕獲屋と助っ人だが、彼からの言葉を聞いて…彼女の眼は見開いた。
ポケギアを持つ右手には力が籠り、微かにミシリと音が立つ…シャワーズが心配そうにその様子を眺めていると、彼のトレーナーの表情にはだんだんと「怒」が出始めたのだ。

「ヘルメス…今度は、織田がターゲットか」
『場所は…アニキから聞いたよ。信長さんが京に寄った時の宿によく使うんだって…本能寺は』
「ああ、豊臣でも聞いた事がある。既に第二の拠点と言える場所らしい…ただし、本拠地である安土城を攻めるよりはずっと簡単らしいが」

しかし、その本能寺に織田が逗留すると言う情報を手に入れる事は要人の暗殺並みに難しいだろう。
それを知り得た奴は…一体何処でその情報を拾ったのだろうか。

「レイシ、そのまま向かってくれ。私も、行く」
『…うん、解った!』

奴――ヘルメスには一度、至近距離からの頭突きをしてやりたいと思っていたところだ。
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