POKEBASA本編

□09 (巻き込まれ)逃走劇
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POKEBASA〜(巻き込まれ)逃走劇



森深き甲斐、虎の地、武田の地。
この地を治める武田信玄の居住地である躑躅ヶ崎館の一室では、重鎮たちが集まりそれぞれ深刻な表情で大将である信玄を囲んで座り込んでいた。

「佐助、捕らえられた不審な女子はどうしておる」
「はい……彼女、完璧に牢を私物化してますよ……。下手に手を出そうとしても傍にいる黒い犬、否、魔獣に阻まれ情報を得ることも出来ません。牢に入ってから筆を片手にブツブツ言っています……」
「お館様、お館様は本当にあの女子が豊臣の魔獣使いと呼ばれる者とお思いなのでしょうか?」
「ブー!」
「ん、幸村、炎丸(エンマル)の毛の色は茶ではなかったか。何故赤になっておる…?」

この日、甲斐では魔獣使いと思われる不審な女が捕らえられたが……逃げ出すわけでもなく、何か仕掛ける訳でもなくただペンを片手にブツブツ言っているだけであった。
甲斐の人々は知らないが、彼女は豊臣の魔獣使いではなくただ単に気が付いたら甲斐の地にいたある意味被害者であるのだ。

その彼女の話はまた次の機会に語るとして、豊臣の魔獣使い、ヒナギクの話に移ろう。

豊臣に厄介になってから十数日が経ち、大阪周辺の魔獣たちを捕獲し終えたヒナギクは、他国からの魔獣の目撃情報を待っている状態、下手に各地を放浪するより、1カ所を拠点にして動いた方が効率的だと考えた結論であった。
そして今、秀吉が見守る中魔獣の事について教えてくれと言っていた半兵衛と魔獣同士の戦い――ポケモンバトルの真っ最中である。
流石天才軍師と呼ばれる半兵衛の頭の回転は早く、ヒナギクが教えた魔獣の知識を全て吸収し、このようにバトルを出来るまでに魔獣に精通出来ているのだ。
今回も、パートナーである月華の苦手タイプである格闘タイプとバトルをさせてほしいと言い、今に至るのだが彼の指示を1ミリも違えることなく月華はヒナギクのバシャーモを弄んでいる。

「バシャーモ『スカイアッパー』!」
「月華『かげぶんしん』から『あやしいひかり』」

バシャーモの拳は幾つも現れた月華の幻影を捕らえ、月華の本体は額の月輪が妖しく光りバシャーモは混乱状態になった。

「そこまで、大丈夫かバシャーモ」
「シャ…」
「そうか…。相変わらず見事だな、技の出し所が上手いよ」
「お褒めいただき光栄だね」
「月華も見事な動きよ、人間であったなら我が軍に迎え入れもしたい」
「ブラッキー」

元々ブラッキーは防御が主体の魔獣であるが、月華は素早い動きが自慢である。
その素早さはヒナギクのバシャーモにも劣らず、さっきのように空の敵にも攻撃することが出来る『スカイアッパー』を避ける運動能力を持ってもいる。
それ以前に大好きな半兵衛と一緒にバトルするのが好きな彼女は、半兵衛の役に立とうと張り切って動きまわっているのだ。
異世界でも人間と魔獣との絆は出来る、それを目の当たりにしたヒナギクは少し嬉しくもあった。

「ヒナギクさん、前田慶次が来ております」
「慶次が?」

数日前に別れた前田の風来坊が再びヒナギクを訪ねてきたのを豊臣の兵の1人が教えてくれた。
別れ際に魔獣の情報が解ったら教えると言っていたため、恐らくその情報のことだろう。
ちなみに様付けするのはやめてくれとヒナギクが言ったため、豊臣の人々は彼女をさん付けで呼んでいる。
ヒナギクは慶次が待っている城門前に急いだ。







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