Liberator本編

□事 の 発端
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事 の 発端



カントー・ジョウト地方で流れているラジオ放送は、コガネシティのラジオ塔から発信されている。
時にはショップで流れる軽快な『ポケモンマーチ』だったり、旅のお供としてポケギアから流れる『あの町この人』だったり、テレビなどの視覚的娯楽がメディアの中心となっても昔から続くラジオ放送は人々とポケモンたちにとって欠かせない存在だ。
かつては木造の塔が建っていた跡地に建てられた鋼鉄の塔、今日もみんなの耳と心を楽しませる番組が周波数に乗って飛んで行く。
往年の名曲『ラプラスに乗った少年』のカバーが流れ終わると、カバー歌手である人気DJ・クルミがアシスタントを務めるロングランの人気チャンネルが始まる時間だ。
4.5Hzの周波数に合わせると、お馴染みの音楽と共に始まった。

「本番入りまーす!3、2…」
『オーキド博士の、ポケモン講座〜!お相手はわたくし、クルミでーす』
『やあみんな、ポケットモンスターの世界へようこそ!』

ポケモン学の権威にして、タマムシ大学名誉教授であるオーキド博士によるこのラジオ番組は今でも人気の衰えない長寿番組だ。
まだポケモンを持つ事のできない少年少女たちは、毎週この時間になるとラジオの前に集まり何時か手にする自分の相棒を想像してその日を心待ちにする。
この世界には、人間が知らないだけでたくさんのポケモンがいる…その数は151匹でも215匹でも700匹でもない、それ以上のポケモンたちがこの世界にも生きているのだ。

『さて、今日紹介するポケモンは…ピカチュウじゃ』

ピカチュウ・ねずみポケモン
高さ:0.4m
重さ:6.0kg
タイプ:電気
特性:せいでんき
希に、特性:ひらいしんの個体が確認されている

『ピカチュウ!マスコットにも採用されている、可愛いポケモンですね』
『可愛いからと言って、無暗に触ったら駄目だぞ。ピカチュウのほっぺは電気袋と言い、此処に電気を溜めていざと言う時に放出し攻撃するのじゃ。悪戯に触ったら、電撃で大変な事になる』

実は、ピカチュウは既に進化したポケモンであり、タマゴから生まれるピチューがトレーナーとの絆を深めるとピカチュウに進化する事が発見されている。
そして、ピカチュウに『雷の石』を使うともう一段階、ライチュウに進化するのだ。

『色々な場所で知られているピカチュウじゃが、実は純粋な野生の個体が生息する場所は限られているんじゃ』
『じゃあ、野生のピカチュウと出会うのって難しいんですね』
『その通り。現在、野生のピカチュウが確認されているのは、ワシの研究所にもほど近いカントー地方の『トキワの森』。そして、海を越えて西へ向かったカロスと言う地方にある『ハクダンの森』だけなんじゃ』

オーキド博士によるピカチュウの講義の後は、リスナーから届いているはがきをクルミが紹介して、質問が来ていたらそれに答える時間になる。
ほとんどはポケモンの謎に対する質問が多いが、ランダムで選ぶはがきの中にこんな質問が書かれていた。

『それでは、最後のお便り…これ!ラジオネーム・黄色ちゃんさんから「こんにちはオーキド博士、クルミちゃん」はい、こんにちは!「わたしはトキワシティに住んでいます。この間、遠くの地方からやって来たトレーナーさんから不思議なポケモンのお話を聞きました。そのトレーナーさんの地方では、人間に変身するポケモンがいるらしいんです。でもメタモンじゃないって言っていました。それって本当なんですか?」。えー!人間に変身するポケモンがいるんですか?』
『ほう、その話を聞かせてくれたトレーナーは恐らく、イッシュ地方から来たのじゃろう。イッシュ地方には『ゾロア』と言う、狐型のポケモンがいる。そのポケモンは、人間に化ける能力を持っているんじゃ。しかし、ゾロアは数か少なく見付けるのも難しい。人間に化けて、人間に紛れているからじゃ。もしかしたら…君の隣の人はひょっとして、ゾロアかもしれんぞ…もしそうだとしても、恐がってはしまっては駄目じゃ。そのゾロアは、凄く恥ずかしがり屋かもしれんからのう』

最後の質問に答えたらもう時間が来てしまった、『オーキド博士のポケモン講座』はこれにて終了、また来週。
さて、来週はどんなポケモンと出会う事ができるのだろうか?

「博士、お疲れ様でした。来週もよろしくお願いします」
「こちらこそ」
「オーキド博士、貴方に会いたいと言う少女が…」
「その子は、黒髪の女の子かな?」
「はい。どうしますか?」
「構わん、ワシが呼んだんじゃ」

6年前、コガネシティのラジオ塔ではポケモンマフィア・ロケット団に占拠されると言う事件が起こった。
それ以来警備が厳しくなり、一般の見学者も1〜2階までのフロアしか見学ができなくなっているため、著名な博士に会いたいとやって来たファン(?)にも過敏になる。
しかし、彼女はラジオの出演者であるオーキド博士に呼ばれて此処に来た…先日、久しぶりに再会した時は驚いたものだ。
小さな少女は成長し、母親の面影を残しつつも美しいお嬢さんになっていた。

「お久しぶりです、オーキド博士」
「やあ、タマムシ大学の入学式以来じゃな。フィティ君」

フィティ――フィットニアは、15歳の少女になっていた。
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