Liberator本編

□02 迷子 の パティシエール
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Liberator〜迷子 の パティシエール



天気は晴天、風は気持ちが良い見事な五月晴れの日が休日だと言うのは、実に運が良い。
少し危険な土手の道を歩きながら、子供たち3人組が楽しく歌っていた。
四方六方八方に飛び回る手裏剣の歌、それはどこかで聞いた事があるようなないような…?

「いやー悪いな、折角の休日なのにバイト手伝ってくれて」
「良いんだよ、きり丸」
「それに、同じ一年ろ組の伏木蔵から聞いたんだけど…きり丸のバイト先のお屋敷で、スリルとサスペンス〜な事が起きたんだって」
「そうなんだよ。お陰でバイトも集まらなくて、時給が相当良いんだよ。でへへ〜」

その、スリルとサスペンスな事件を不気味がってお手伝いも辞めてしまい、人手不足だから高給なバイト求人を出しても寄り付かない。
これは稼ぎ時だと、外出許可書を先生書いて頂いて一年は組の乱太郎、きり丸、しんべヱの三人は仲良くきり丸のバイト先へ向かっていた。
人手不足な高給バイトと言うのは、その屋敷で行われる葬式の手伝い…京で手広く事業を興している問丸が、謎の死を遂げたと言うのだ。
乱太郎と同じ保健委員の鶴町伏木蔵の情報によると、健康オタクのはずである主人がだんだんと気を病んでしまい、挙句の果てには自殺したのである。
物の怪に取り憑かれたとか土地神の祟りだとか、人々の噂によってその“死”の恐ろしさは何倍にも不気味に伝わり、半分以上のお手伝いさんが辞めてしまったのだ。

「お葬式に人手不足じゃ、流石に大変だよね」
「稼ぎ時♪稼ぎ時♪」
「ん……くんくん、くんくん」
「しんべヱ、どうしたの?」
「甘い匂いがする〜こっちだ!」
「しんべヱ、待ってよ!」

丸々とした体格で運動が苦手はしんべヱが素早く駆け出す時は、美味しそうな物及びその匂いを嗅ぎ付けた時である。
穏やかな風に乗って流れて来るのは甘いお菓子の匂い、それに紛れて甘酸っぱい果物の匂いもあればまったりとした油分の匂いまで…これを嗅いで、食いしん坊が駆け出さない方がおかしい。

「これは…お菓子だ〜!お菓子ーーー!」
「しんべヱーーー!」
「待てよ、バイトの時間に遅れちゃうだろ〜!」

そして、時間は数分前に遡る。
木陰の岩に腰を下ろしてポケギアに入っている『タウンマップ』を起動するが、この周辺の地図を認識せずに『ERROR』と返って来た。
やはり此処は知らぬ場所、世界中で物凄いシェアを誇る高性能なポケギアが位置情報を特定できないくらいの辺鄙な地…いつの間に、こんな場所に来てしまったのだろうか?
もうポケギアは諦めて頭を抱える…現状は迷子、完璧なる迷子であったのだ。
見慣れぬ服装に重そうな鞄を持った迷子、見ず知らずの土地に流れ着いてしまった旅人を興味深く観察していた視線がアイコンタクトを取ると、迷子の前に飛び出て来た。

「おい兄ちゃん、死にたくなかったら身包み全部置いてきな!」
「……」
「おい聞いてんのか!」
「その重そうな荷物も珍しい着物も、全部置いてけ!」
「……何、私に言っているのか?」
「お前しかいねえだろうが!」
「“兄ちゃん”って呼んだから、別の人かと思った」

手入れの悪そうな刀を差し向けられても得に動揺せずに、頭を抱えた迷子は座っていた岩から立ち上がると野盗A及びBは驚いた。
自分たちよりも頭一つ以上大きい、恐らく六尺は(約180cm)あるであろう高身長に一瞬怯んだが特段武器を持っているとは思えない。
ならば勝てると、実力行使に出て来た。

「この野郎!素直に言う事を聞いときゃ良いものを!」
「やっちまえ!」
「…!だから、“私”は“野郎”じゃない!マフィン!」
「ブオー!」

手にしたのは紅白の球…ポケモントレーナーな証、モンスターボールだ。
その小さなボールの中から飛び出て来たのは炎燃え滾る大火豚、その姿を見た者はこう叫ぶだろう。

「も、物の怪だーー!」
「ぎゃああぁぁぁ!」
「『ヒートスタンプ』!」
「ブフォーー!」

炎の燃えたその大きな身体が真っ直ぐタックルで突っ込んで来ると、野盗A及びBは空の彼方に吹っ飛んであっと言う間にお星様になったのであった。
『ヒートスタンプ』は技を使うものの体重が相手よりも重いと威力が増す、150kgあるエンブオーが相手ではあまりにも気の毒である。

「ブオ」
「解っているよ、若干八つ当たり気味だった」
「し、死ねーーー!化け物がーーー!」
「っ?!」
「ブ!」
「お菓子ーーーーーっ!!」

この瞬間の出来事はスローモーションのようだったと、後に語る。
実はもう1人、野盗Cがいた。
2人が注意を引き付けておいて、逃げようとしたら最後の1人が出て来て退路を塞ぐと言うフォーメーションをとっていたが、まさか野盗A及びBが吹っ飛ばされてお星様になるとは予想外。
炎の物の怪を引き連れて操る人間は化け物に違いない、恐怖に任せて若干刃毀れ気味の刀を振り上げて傷の一つでも負わせようとしたが、横への注意を怠っていた。
お菓子の甘い匂いを嗅ぎ付けて爆走するしんべヱは急に止まれない、しかもとてつもない石頭なため横道から跳び出して来るとなるともう兵器以外の何物でもないのだ。
涎と鼻水を滴らせて飛んで来た彼を目にすると野盗Cはギョっと目を見張り、その石頭と正面衝突してしまったのである。
仲間はお星様になったがこちらは目の前にお星様がぐるぐる回る、そのままフラフラと歩いていたら土手を踏み外し川に落下!下流にどんぶらこっこと流されて行ったのだった。

「「しんべヱーーー!」」
「お菓子!」
「……とりあえず。危ないところを、どうもありがとう」
「ブオ」

一年は組の3人組が、また厄介事に関わったようである。
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