Liberator本編

□04 噂 の 美容師
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Liberator〜噂 の 美容師



最近、くのいち教室のくのたまたちが色めき立ちながら“彼”の噂をする。
どんな時代でも世界でも、女の子と言うのは流行のお洒落には敏感であり、流行が爆発する前にどこからかその情報を仕入れて来て彼女たちの間で交換するのだ。

「ねえ聞いた?町に颯爽と現れた髪結いさんの噂」
「聞いた聞いた!凄く素敵な人なんでしょう!」
「実際に行ってみた人の話によると、お姫様みたいに対応してくれるんだって」
「結ってくれる髪も前衛的で、とっても可愛いだって!」

忍術学園にほど近い町にフラっと現れて、外れの空き家に髪結いの店を構えたと思ったらあっと言う間に女性たちを虜にした。
見た事もない技術と見た事もない結い方…と言うより、髪を切って洗って癖を付けるその技術も確かなものながら、女性たちの心を捕える術が一流なのだ。
お客である女性1人1人に似合う髪型を仕上げるのもさる事ながら、整った容姿と優しげな仕草と言葉で彼女たちを魅了する…。
これだけ見ると、人心掌握に長けた忍者なのかと疑いもするが、“彼”はそんな存在ではない。
言うならば、そう、異邦人である…。

「楽しみだな〜見た事もない技術の、噂の髪結い」
「タカ丸さん、そんな呑気な事言っているバヤイですか!」
「そうですよ、お客の女性の心を全部掌握してしまう髪結いなんて、怪しいでしょうが!」

忍術学園のカリキュラムは全部で6年間、4年目となる彼らにとって珍しいお店は好奇心で覗きに行く対象ではなく、疑うべきものである。
六年生と同じ年齢にして、四年生から中途入学をした髪結いの斉藤タカ丸にとっては、自分の技術を向上させるための訪問かもしれないが同級生たちにとっては“怪しい”の一言なのだ。
忍術学年の四年生5人組、わくわくしているタカ丸を咎める滝夜叉丸と三木ヱ門、その後ろを付いて行く守一郎に鋤を担いでマイペースに歩く喜八郎…実に、統率が取れていない。
くのたまたちの話題に耳聡い滝夜叉丸とタカ丸が、噂の髪結いの話を聞いたのだが反応はそれぞれであった。
片や、あまりにも怪しい髪結いの正体を、この優秀な私が暴いてみせましょう!と高々と宣言した。
片や、前衛的でとっても可愛い髪結いの技術、見てみたい!とわくわくして外出届をもらいに行った。

「町に入り込んでいる忍者の事を『蟄虫』と言うが…まさか、その髪結いが蟄虫だと思うのか?」
「いや、本物の蟄虫ならば噂になるほど派手には動かないだろう。だから、この成績優秀武芸全般も超一流の滝夜叉丸が正体を暴いてやろうと赴いた次第なのだ!」
「何を言うか滝夜叉丸!過激な武器を扱わせたら忍術学園bPのこの三木ヱ門に任せておけ!」
「何を〜!」
「やるか〜!」

犬猿の仲である滝夜叉丸と三木ヱ門は相変わらずだ、新入生の浜守一郎も同級生のテンションにやっと慣れて来たところである。

「最近は変な奴が現れるな。学園長先生の専属菓子職人になった、あの背の高い人だって不思議な人だし」
「守一郎はそう思うのかい?僕は、そんなに嫌いじゃないけどね。学園長のおやつ時に食堂に行くとお菓子くれるし」
「しっかり餌付けされているじゃないかアホハチロー!」
「そもそも、先生方も六年生の先輩方が監視も何もしないなんておかしいじゃないか!」
「…お菓子だけに、おかしい……っぶっひゃひゃひゃひゃ!」
「ねえ、そろそろ町に着くよ」

はっきり言う、カオスである…。
各々の個性が強すぎて協調性がない四年生と下級生たちに言われているが、それは守一郎が増えても変わらないようだ…むしろ拍車がかかっている。
笑いのツボに入ってゲラゲラ笑っている守一郎に睨み合いが続く滝夜叉丸と三木ヱ門、一応その場を宥めようとするタカ丸にそんな事気にしちゃいない喜八郎と、妙な少年たちは噂の髪結いのいる町にやって来た。
町の出入り口とは違う外れの辺り、数年前までは人が住んでいたであろう空き家にひっそりと看板が立っているが『髪結い処』とは書いていない。
しかし、すっかり有名になったその店には女性たちが押し掛けるのが直ぐに解った…黄色い声と色とりどりの小袖の色が、随分と華やかだ。

「あった〜此処だ」
「だけど、女性たちで肝心の髪結いが見えないな」
「お、おーい、これ見てみろよ」

守一郎が見付けたのは一枚の看板、店の名前を記した物ではなく注意事項だ…この店に足を踏み入れるなら、厳守しなくてはならない事。

「…『男性厳禁』?」
「えーと、つまり此処は女性専用の髪結い処なのかな?」
「やはりこの滝夜叉丸の勘が当たったな!女性だけを集める髪結いなんて、すこぶる怪しい!」
「でも、男の僕たちははいれないよね。忍術学園に帰ってお菓子もらおう」
「帰るな喜八郎!」

今から帰れば、学園長のおやつ時に間に合うと言う事で、さっさと踵を返した喜八郎…珍しい技術を見る事が叶わなかったタカ丸が、未練がましそうに女性たちの山を眺めていた。
男性厳禁だから女性たちも存分に羽を伸ばせるのがこの店の人気の秘密でもあるが、それ以上に此処の店主がどうしようもなく女心を擽るのだ。

「アスターく〜ん、今日もお願い」
「いらっしゃいませ、帯屋の奥様。今日は、どう言ったご用件で?」
「近所の奥様友達と女子会なのよ。髪お願い」
「喜んで。艶やかな奥様の黒髪なら、アップで持ち上げて首を見せて、女性らしさと品の良さを演出すれば、奥様の気品溢れる魅力が存分に引き出されるでしょうね」
「やっだ〜お上手何だからも〜♪本当にアスター君みたいな髪結いさんがいてくれて嬉しいわ〜」
「お褒めに預かり光栄です。でも、僕の事は“髪結い”ではなく、“美容師”とお呼び下さい」

子育てがひと段落したおばちゃんでさえも、思わず頬を染めてしまう女性を称賛する言葉と優しい手付き…美容師と名乗った背の高い青年は、自前の帽子を被り直して腰に下げたハサミと櫛を手に取った。
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