Liberator本編

□07 解放 の 足音
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Liberator〜解放 の 足音



ポケットモンスター――縮めて、ポケモン。
彼らは魔の獣と称されたように、大雑把な生物学的な分類からすると獣のそれに近いだろう。
それと同時に、彼らは獣のように第六感的な感覚が人間よりも遥かに優れている。
超自然的な災害を捉えて迅速に避難するものもいれば、伝わらなくとも、迫害されようが人間に告知するために動くものもいる…ポケモンたちが騒ぎ何かを訴えようとしている時は、人間が知る事のできない大事件が水面下で起きていると言う事なのだ。

「ブオ!ブオー!」
「ぱう、ぱうぱう!」
「マフィン?」
「どうした、シルエット?」

忍術学園の食堂、エンブオーがディルに何かを訴えてパウワウも同じ素振りを見せてアスターの腕を小さな手で叩く。
先ほど、アスターが感じた小さな揺れの跡からそわそわと落ち着きがなく、目に見えない何かを気にしているようだった。

「ディルちゃん、ただいま〜」
「おばちゃん。お帰りなさい」
「さっき地震あったんだけど、こっちは揺れた?お魚をもらいに行ったは組の子たちは大丈夫かしら?…っやだ、また」
「っ!」

今度の揺れはディルにもしっかりと感じ取れた、まるで“あの時”のように地面が揺れて思わずエンブオーにしがみ付いてしゃがみ込んだ。
アスターは座り込んだ食堂のおばちゃんを支えて、パウワウを背負って食卓の下に潜り込むと言う防災訓練に忠実に従った避難をする。
こんな短い間隔で地震、しかも直観的に“あの時”…コガネシティを思い起こしたこの揺れ。
揺れが収まってしばらく経つ、おばちゃんと一緒に食卓から這い出て来たアスターとゆっくり立ち上がったディルは、無言で顔を見合わせる…おばちゃんが買って来た味噌の壷が、床にゴロンと転がった。

「おばちゃん、おやつの時間になったら、箱の中のスイーツを学園長に持って行くのをお願いします」
「え、ディルちゃん…アスター君も?!」

ポケモンたちをボールに戻して、ディルとアスターは食堂を飛び出した。
相棒たちが感じ取り訴えている真実ははっきりとは解らない、だけど、絶対に何かがあると確信している…それは、トレーナーの勘とでも言っておこうか。
ポケモンたちの言葉を、心をしっかりはっきりと読み取る事なんてできないだろうけど、それでも信じる事はできる。

「タルト!」
「タチャーナ!」
「乱太郎たちも心配だけど、もしかしたら私たちの世界に関係ある何かが…」
「かもしれない。俺たちが地震に過敏になっているだけかもしれないけどな。何か見付けたら直ぐに知らせる」
「解った」

何故この世界に来てしまったのか、この世界にいる意味や理由はあるのか…?
それが解らないから、走り回って知ろうとする。
どんな些細な事でも良い、関係ない事かもしれないけれどこの目で見て納得できて、これから前へ進むためのきっかけが…ある種の諦めが欲しいのだ。
空に飛び立ち、異変の起きている場所やその気配を探ろうと離陸…しようとしたら、阻止された。

「ちょっと待ってーーー!外出するなら、出門表にサインして下さい!」
「トロっ?!」
「え、えっ!こ、小松田君?!」
「お客様と言えども、サインは頂きますよーーー!」
「やめんか!このマニュアル小僧!!」
「ギャー…」

出門表を手にした小松田君が、トロピウスの脚に掴まって空まで追って来たのである…別名・忍術学園のサイドワインダー。







***







地面が割れるなんて誰が想像した?
ポケモンバトルなら驚かない、この場にいる人間ならオレガノ限定だけども。
『じわれ』を始めとした技のデパートの大売り出しで地面ぐらい割れる、それがポケモンバトルだ…基本知識や前提がない者には、結構理解してもらえないけど。
だけど、目の前に地面を割ったポケモンがいれば驚かなかった、大きなクレーターの中心から漏れる光しか見えないのに地面が割れればポケモントレーナーだって驚くわ。

「カメックス!」
「カメ!」
「『みずのはどう』!」

飛んで来る泥の塊をカメックスの技が粉砕すると一気に元気がなくなるように見える、やはりタイプ相性の何かが上手く働いているのだろう。
ボタボタと落ちる泥が地面に落ちる、だけど、決して止まりはしない。

「何なんだよ、全く!」
「オレガノさん、大変です!」
「どうした?!」
「しんべヱが、砂に埋もれて…!」
「ってか、おれたちも砂に埋もれてる!」
「いつの間に砂地に?!」

割れた地面が陥没して子供たちの足元がズブズブと砂に吸い込まれている、よく見たらオレガノの足元も砂に侵略されているではないか。
人間では決して抜け出せない『すなじごく』、体重の重いしんべヱがあっと言う間に沈んでしまったようだ…乱太郎ときり丸に腕を掴んで支えてもらっても、既に胸の高さまで砂に潜っている。
このままでは『すなじごく』に呑み込まれて窒素の危険、早く脱出しなければ。

「掴まれ!早く!」
「はい!」
「しんべヱ、放すなよ」
「うん」
「絶対に放すなよ。カメックス、地面に向けて『ハイドロポンプ』!」
「カメー!」

カメックスがオレガノの腕をしっかりつかむと背中のキャノンを下に向けて激流を発射、その勢いで離れ小島となった砂地の地面から脱出したのだ。
オレガノに掴まっていた3人もそのまま砂地から足が抜けて、しんべヱもすぽーんと抜けて『すなじごく』に呑まれずに済んだ…が、飛行タイプでもないカメックスが空中に出てしまうと、酷く無防備になってしまう。

「オレガノさん、後ろ!」
「っ!?」
「カ…っ」

『ドリルライナー』のように回転を加えた地面の槍が彼らを狙って迫っている、カメックスの強固な甲羅でも防御できないタイミングと位置でしかもこんな無防備な瞬間に。
こうなったら子供たちを地面に下して自分たちが的になろうか、オレガノが自分の腰をしっかりと掴んでいる小さな手を掃おうとした…しかし、このタイミングで身軽な黒い獣が跳び出したのだ。

「『あくのはどう』!」
「グギャアァァァァ!!」
「っな…!」

跳ぶ黒い影と黒い波導、大地の槍は砕け散り固い土がパラパラと降り注ぐ。
長い鬣を靡かせた獣に抱えられた常盤色の瞳と、オレガノの青い目が交差したその瞬間…ゾロアークの腕の中にいる、黒髪の少女に気が付いたのだ。
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