Liberator本編

□09 彼 の トラウマ
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Liberator09〜彼 の トラウマ



室町世界の朝は早い。
電気でLEDライトが点く訳ではないので、日が昇ると同時に起きて沈むと寝るのが人々の生活スタイルだ。
なので必然的に朝は早く起きて夜も早く寝る。
忍術学園では、勉学に励む子供たちが仄かな油の光を頼りに忍たまの友を読んだり、鍛えた夜目を活かして鍛錬に励んだりしているのだ。
それでも騒がしくない静寂なる夜を過ごせるのは、流石闇に溶け込む忍者の卵たちと言うべきだろう。
朝を告げるドードリオ…ではなく、鶏が鳴く時間帯から少しだけズレて、アスターは目を覚ました。

「ぱうぱう〜!」
「う…!随分と、ワイルドだな…おはよう、シルエット」
「きゅう」

モンスターボールから飛び出て来たパウワウは、布団で寝ているアスターの上に飛び乗るとその衝撃で起きた。
タマゴから生まれてからそう日が経っていないため、このようにじゃれながら上に乗って来る事もあるがそれは今の内だけ。
パウワウの平均体重は実に90kgだ…可愛らしいレディの愛が物理的に重い。
アスターが宛がわれた部屋は忍たま長屋にある、ただし1人部屋ではなくオレガノと同室だ。
そう言われた時、一瞬躊躇ったが仕方ない、保護されているとは言え彼らは学園の食客兼居候だから贅沢は言えないのである。
アスターとオレガノの布団に簡易的な壁を作っている衝立の向こう側を覗いて見ると、布団がきちんと畳まれて不在…同室の少年は、もう起きているようだ。

「おはよう。早いな」
「おはようございます。そう言うアスターサンも、早いんじゃないんスか?」
「ニャ〜」

長屋の敷地内にある井戸で冷たい水を汲んで顔を洗っていたオレガノを発見、軽く挨拶を交わすと彼の隣にいたニャースも返してくれる。
オレガノは元来早寝・早起きの健康優良児、目覚まし時計やポケギアのアラーム機能を使わずとも体内時計がしっかりしているのだ。
早朝からの新聞配達のバイトもしているのもあるが、「時は金なり」を合言葉としてだらだら寝ているのは時間が勿体ないのである。
アスターも顔を洗おうと井戸の水を汲もうとするが、案外苦戦した…蛇口から水が出る現代人には、井戸は難しかった。

「……」
「…何か用か?男の視線はいらなんだけど」
「いや。髪、染めてるんスね」
「あ、そうだが」

いつも帽子を被っているので解りにくいが、アスターの髪の色と眉毛の色が違う…どうやら、本来の色よりも明るいブラウンのヘアカラーで染めているらしい。
ポケモン世界の人々の髪や瞳の色は実にカラフルで様々な色があるが、アスターの本来の色は髪も目もナチュラルな焦げ茶だ。
ただ何気なく、オレガノにとっては素朴な発見だったのだが、髪を染めている事を聞いた時のアスターの表情が少し寂しげな感じがした。
一方、女性陣…フィットニアとディルの部屋は、くのたま教室の敷地内にある。
この部屋には、室町時代には高価な鏡が置かれており、身支度をするためにフィットニアがそれを覗き込んでいた。

「もうちょっと伸ばそうかな?」
「チィ!」

ブラシで黒髪を梳かしながら、時々チラーミィの毛並みを撫でてあげる。
3年間伸ばした彼女の髪は背中まで伸びて、美しい黒髪となっていた。
寝癖がないかしっかりと確認したら、紅珊瑚の根付けが付いた菜の花色の組紐を手に取り、それをリボン代わりとして髪に結ぶ。
彼女の黒髪に明るい菜の花色は良く似合う…鏡に映る自分の姿を見直して、曲がっていないかを確認したら身支度は完了だ。

「よっし!朝ご飯食べに行こう」
「ミィ」

徹夜を決行した者を除けば、忍術学園で最も早起きなのは食堂のおばちゃんである。
朝が白み始める頃に起きて厨房に赴き、お米を焚いて味噌汁を作って魚を焼く…おばちゃん1人で、忍術学園で暮らす生徒及び教師たち全員分の食事を提供しているのだ。

「おはようございますおばちゃん。手伝いますよ」
「おはようディルちゃん。いつも悪いわね」
「いいえ。保護とは言え、私たちは居候させてもらっているんですから」
「じゃあ漬物を切ってもらえる?」
「はい」

長く格闘しても直らなかった寝癖を、バンダナを巻いて誤魔化してディルが朝一に食堂へ顔を出した。
学園長専属のパティシエールとして厨房を使わせてもらっているディルは、こうして朝食の準備を手伝いに顔を出す。
最初は、おばちゃん1人で全員分の食事の準備は大変だろうと思って手伝っていたのだがそんな事はなかった…食堂のおばちゃんの名を冠する通り、厨房内での動きはあまりにも機敏なのだ。
もう、自分の出番はいらぬお節介かもしれないと悟るぐらいおばちゃんの仕事は早く丁寧だった。
プロの仕事場に素人が出入りしてはならないと言う暗黙の了解を、此処で再確認してしまったが、それでも彼女は手伝いたいと言ったら快く迎えてくれた。

「ディルちゃん、今日のおやつは何にする予定?」
「そうですね…昨日、木苺をたくさん摘んで来たのでそれを使おうかと思っています」
「あら良いわね。これからもっと温かくなるから、木の実や果物も旬になって来るわね」
「レシピのレパートリーも増えて、もっと色々作れるようになりますね」

甘酸っぱい綺麗なルビー色のジュレをたっぷりかけた、フランボワーズのムースケーキにしようか。
ご飯も味噌汁もおかずも準備完了、食べ盛りの忍たまたちがいつ来ても良い。
朝ご飯の時間帯は、日を跨ぐ演習がない限り六年生の子たちが一番乗りでやって来るのだが…。

「おばちゃんおはよう!ハラ減った!」
「ぼそ、ディルさんもおはようございます」
「はい、おはよう」

今日は、小平太と長次のろ組が一番乗りであった。
こんな朝から、忍術学園の1日が始まる。







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