POKETENI本編

□02 寺と月と彼女の涙と
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POKETENI〜寺と月と彼女の涙と



あれは一体何だったのだろうか…?
昼間の事を思い出しながら、リョーマは自宅の寺の中にある鐘撞堂に座って夜空を眺めていた。
何時もは一応此処の住職である南次郎がエロ本を読みながら足で鐘を撞くと言う罰当たりな行為をしている場所だが、流石に夜は静かだ。
汚れすぎている東京の夜空では星が見えず、月の独壇場、しかも今日は見事な満月、我が物顔で東京の夜空に居座っている。
昼間の出来事…ピンクの猫が現れたと思ったら巨大な鷲に猫ごと誘拐されかけ、その鷲に攻撃を仕掛けて来た鷹の空中戦。
鷹に指示を出していた白い羽の簪を着けた女性、そして彼女が投げたボールに鷲が吸い込まれてしまった現実ではありえない光景…。
もしかしたらあれは夢だったのか?部室近くの木の下で寝ていたら見てしまった白昼夢だったのではないのだろうか?
しかし自分の両肩に残る鷲の爪跡の痛みは本物だし、その場にいた部員と顧問も全てを見ていたからそれは現実に起こった事なのだろう。
あの後部活は急遽中止、リョーマは病院へ行き両肩の傷を見て貰った、どうしてこんな傷が付いたのか説明するのが難しかったが。

「何だったんだよ、一体…」

月に言ってやっても答えてくれる筈は無いし、今は一緒にいるカルピンもいない、返事をしてくれる存在なんていないと思っていたのだが…。

「ニャ〜」
「お前、昼間の?」
「ニャル」

昼間のように茂みから出て来たのは忘れもしないピンク色で糸目の猫。
その猫は当たり前のように鐘撞堂へ登り、リョーマの隣にまでやって来たのだ。
そして揺れている自分の尻尾に着いている黄色いボンボンに視線が向くと、そのボンボンを追いかけてその場をぐるぐる回り、目を回して倒れてしまった。

「ぷ、お前面白いな」
「ニャ〜」
「エネコ?何処に行ったの…あ」
「あ、昼間の」

まさかこんなにも早く再会するとは思っていなかった、彼女にとってもリョーマにとっても。
彼女の黒い長髪と、星一つ見えない夜空に映えて月に照らされた白い羽の簪が随分と明るく見えた。
石畳の道をブーツの音を響かせてこちらに向かって来る彼女は、昼間に見た時よりも少し小さく、儚いイメージさえも持てる…。
まるで本当にこの世界で生きている人間なのかどうかも解らない、もしかしたら彼女はコノ世の者ではないかもしれないと言う幻想まで抱かされる。

「こんばんは」
「…こんばんは」
「こっち来たら?」
「…え?」
「話さない?」
「ニャ!」
「こいつは梃子でも動かないみたいだけど」

何時の間にかリョーマの膝を占領した猫は、彼女を見るなりこっちへ来いとも取れる鳴き声を上げた。
彼女は少し考え込んだが、その内観念したかのように鐘撞堂の中に入り、リョーマの隣に腰を降ろしたのだった。




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