POKETENI本編

□04 ボールとゲットと郵便配達員
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POKETENI〜ボールとゲットと郵便配達員



不思議な生物ポケットモンスター、縮めてポケモン。
青学テニス部の目の前にいる2匹、ブラッキーとエーフィはその生き物であり、ヒナヅルの背中に乗っているゲンガーもそれだと言うのだ。
更には机の上に並べられている赤と白の球――モンスターボールやポケモン用の傷薬やら見たことも無いアイテム…ヒナヅルの世界では普通に店先で売られているそれらも、この世界では異質な物である。
彼女の真剣な目に対して彼らは何を言ったら良いのだろうか…?

「言っとくけど、俺は信じてますから」
「越前っ?!」
「ヒナヅルさんの目は嘘付いてないし、実際にポケモンも見たからね」

リョーマはそう言うと、机の上にあった月の模様が描かれているボールを手にとってポンポンと手の中で転がし始めた。
彼の足元にいるエネコがそのボールに反応して、ぴょこぴょことその場で跳ねている。
すると手塚がヒナヅルに近付き、彼女の前に立つと深々とヒナヅルに向けて頭を下げた。

「昨日はうちの部員を助けて下さりありがとうございました。俺は貴女の事を信じます」
「え…」
「俺も信じます!」
「俺も!」
「信じるっス」
「実際、見てしまったからな」
「少し疑ってしまってすみませんでした」
「貴方の事もポケモンの事も信じます」
「信じるよヒナヅルちゃん!」
「突拍子も無い事だけれど、嘘じゃないようだね」

手塚を皮切りに次々と口を開くテニス部たちと竜崎、彼らは最初からヒナヅルの事もポケモンの事も、此処とは違う別の世界の存在も信じ切っていた、ただ言い出すキッカケとやらが掴めなかったのだ。
中学生くらいの少年期はある意味色々な事を吸収でき、その吸収が柔軟な時期であるだろう、完璧な子供ではないけれど完璧な大人でも無い、大人へはまだ遠いその時期に彼らは成長する。
その中にまるでゲームのような異世界の住民たちが迷い込んで来たのだ、日常の中に浮き上った非日常…好奇心、と言う事も出来るが、これまたこの時期は一番正義感が強くなる時期とも言う、自分たちの仲間を助けてくれたヒナヅルやポケモンたちを拒絶するなど彼らには出来なかったのだ。
受け入れて、信じてしまったら子供特有の好奇心が溢れ出す。
ポケモンや他の道具に興味シンシンな彼らは、リョーマの傍から離れようとしないエネコやブラッキーにエーフィ、恐る恐るだがゲンガーにも近付いたりしていた。
そこでひたすらメモ(と言う名のデータ収集)をとっていた乾が、机の上に置いてある物騒な物に気が付いた。
この世界にあったらとても物騒なそれは、何故か他の道具より堂々とした存在感をも醸し出している。
ヒナヅルの様な華奢な女性が持つにはかなり不釣り合いであり、どうして彼女がこれを持っているのかも解らない物であった。

「アシビさん、これは…?」
「ヒナヅルで良いわよ。これは“ボールバズーカ”、私の仕事道具ね」
「そう言えば、“捕獲屋”ってどんな仕事なんですか?」

さっき驚かせてしまった事を謝っているかのように、ゲンガーにべったりとくっつかれている大石が聞いてみた。
実は此処にいるヒナヅル以外の全員が気になっていた事、捕獲屋とは、ヒナヅルの仕事とは一体何なのかと…?

「ポケモンはね、普通はほとんどが野生なの。森と草むらとか山とかに生息していて、人間の仲間になりたくて近付いてくる子もいれば襲いかかってくる子もいるの。その子たちをこのボールで捕まえて仲間になる、これが捕獲」

生徒たちに講義をする教師の様に、ヒナヅルはモンスターボールを取り出すと大石にくっついているゲンガーに向けてボールを翳した。
ボールのスイッチから赤い光線が出てゲンガーを捕らえたかと思うと、ゲンガーは赤い光に吸い込まれて何処かに消えてしまった、そしてヒナヅルがボールを投げると中からはゲンガーが再び出て来たのだ。
この世界の技術では説明できないボールの性能に少年たちからは驚きの声、そしてヒナヅルは更に話を続ける。

「でもね、中にはポケモンを逃がしてしまうトレーナーもいるの。理由は様々だけれど、捕獲されたポケモンは捕獲された時点でそのトレーナーを親だと認識するから家族同然なの。いくら理由があるからと言って親から無理矢理引き離すなんてポケモンたちにも悪いし……だからね、このバズーカにボールを装填して射出するとボール内のコンピュータが作動して、ポケモンたちをボールに入れて持ち運ぶ機能だけを残して捕獲する。これが仮捕獲…詳しい事は企業秘密だけどね」

つまりはこのバズーカから出て来たボールで野生のポケモンを捕獲すると、野生のまま持ち運ぶ事が出来るのだ。
勿論ただ捕獲する訳ではない、捕獲し終わりそのポケモンの協力が終わった後、例えば研究のための生態調査などが終わった後に彼らを元の生息地に帰すまでが捕獲屋の仕事なのだ。
しかしそこでリョーマが気付く、昨日のヒナヅルの事を。
昨日バルジーナを捕獲していた時のヒナヅルはこのバズーカを持っていなかった…迷い込んでしまったポケモンたちを回収するなら彼女がわざわざ親にならなくてはいいのではないか、と。
しかしその疑問は次のヒナヅルの言葉によって消える事となる。

「だけど……この世界に来た時の衝撃のせいかな…?なんか壊れちゃって仮捕獲が無理になっちゃったのよね…。直すにも専用のコンピュータは実家にあるし…」

そう言って小さくため息を着いたヒナヅルは、手に持ったバズーカを持っていた小さめのリュックに入れた。
ちょっと待て、どうしてそんな小さなリュックにバズーカが入るんだ…?とその場の全員は思ったが口を噤んだ。
異世界の鞄だ、きっと自分たちの想像とは違うのだろう…そうだ、ポケモン世界の鞄類は何でも入るし無限に入る不思議の塊なのだから…。

「そう言えば越前の持っているボールはどうして月の模様が描かれているんですか?他にも色々な種類がありますけど」
「リョーマが持っているのは『ムーンボール』と言ってちょっと特殊なボールなの。ある特定のポケモンを捕まえやすくするボールなんだけど…」
「ニャー!」
「あっ?」

リョーマが未だに手の中で転がしていたムーンボールに反応したエネコがボールに向かって『たいあたり』をすると、当然リョーマの手からムーンボールが床に向かって落ちた。
そして落ちたボールにまたもや反応したエネコが鼻先でボールのスイッチに触れ、中から出て来た赤い光がエネコを捕らえるとそのままボールの中に入ってしまったのだ。

「「「「「……えっ?!」」」」」
「ちょっと…エネコ…?」

エネコが入ったムーンボールはその場でカタカタと動いていたが、その内カチンと音を立てて動かなくなってしまった。

「こ、これは…?」
「……エネコ、ゲットだぜ、ね」

リョーマ は エネコ を ゲット した!▽
ゲームのように言うとこんな感じである…。
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