POKETENI本編

□07 軽業師と逃走劇と電気ポケモン
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POKETENI〜軽業師と逃走劇と電気ポケモン



神奈川は多分都会に位置しているのだと思う(作者意見)。
だからこそこの様に黒覆面の連中が銃を片手に乗り込んで来た…そんな非日常的な事が起こってしまったのか…?
人々の悲鳴やざわざわと言う雑音が響くが、ソテツたちのいる場所から遥か遠くでもう一発の銃声と荒々しい声が響いた。

「黙れっ!このデパートは我々が占拠した。全員この階に集まってもらう」
「くそ、何で電気が消えたんだ…?」
「上の階の人間を連れてこい!」
「はい!」

停電して止まってしまったエスカレーターを駆け降りて登って下や上の階に散って行く黒覆面…此処でテロリストに統一しよう…と未だに困惑から抜け出せていない人々。
しかし手下と思えるテロリストが銃を突き付けると、悲鳴と共に人々が一カ所に集められ始めた。

「これは…日本でもこんな事が起きてしまうとは」
「世も末だな」
「マネネ?」
「彼らの目的は一体何なんだ…?」
「このデパートは近所の中でも一番の売り上げを誇っているが」
「その売り上げが目当てか?」
「の、割には大げさすぎる」
「…ねえ、さっきから約1名と2匹が足りないよね」

幸村の指摘通り、青いジャージの自称軽業師と、彼の看板娘である2匹のポケモンが彼らの輪の中から何時の間にか消えてしまっている。
真田の肩の上に居た筈のモモも、忽然とその姿を消していた。
で、そのソテツが何をしていたと言うと…催事ブースの更に裏の通風孔の枠組みを取り外そうと、極力音を立てずにガタガタとしていたのだ。

「な、何をしているのだ、ソテツ!」
「しぃー!弦一郎、静かに」
「プラ」
「マイ」
「此処から下の階に行けそうだからな…お、大人1人が通れそうだ、まずはトンズラすっぞ」

枠組みをガタンと音を立てて取り外すと、通風孔の内部を通れる事を確認する。
ソテツの両肩にいたモモとアイが通風孔の中に飛び乗ると、ソテツや少年たち対して小さな手で手招きをした。

「此処から逃げ出すつもりか?!」
「そんな無茶な…計算しなくても解るぞ」
「…俺はよう、色々考えて身体が動かないのは嫌いなんだ。それに、捕まっちまったら、何も出来ねえ」

ソテツの顔が一瞬だけ真剣な物に変わり少し低い声でそう呟いた、通風孔の枠組みをモモとアイに手渡してソテツは頭のタオルをしっかりと巻き直しす。
黒覆面たちはまだ遠くで団子の様に集まり、他の人々はパニック状態になり入り口に逃げようとしたが停電で薄暗くなってしまったフロアの視界と黒覆面が塞いでいるため、逃げられない。
そして誰もソテツが行っている事に気付いていない…此処から逃げるのなら今の内だ。

「モットーは、考えるより動け、だ。何とかなるさ」

ニカっと効果音が付きそうな笑顔で笑ったソテツは、通風孔の天井を掴むと身軽にそこに消えて行った。
そして手を差し出すと、何かを決心した様子の幸村がしっかりとその手を取った。

「黙って捕まるよりは、動こう」
「…そうだな」
「マネ」
「…仕方がない、お前に着いて行く事にしよう」
「決まりだな!」
「プラ!」
「マイ!」

たった一瞬のあの真剣な表情が、陽気で年相応とも言えないソテツが自分たちより遥かに大人である…そう実感させてくれた気がした。
そしてテロリストの一味がこの場所に人間がいないかと覗きに来たが、そこにあったのはしっかりと枠組みが嵌められている通風孔…。
まさか此処から逃げ出してはいないだろと思い、次にトイレに入って残った人間がいないか探しに行った。





スポーツショップがある階の直ぐ下の階、全ての人間がこの上に集められ人の気配がすっかりなくなってしまったそこの通風孔の枠組みが大きな音を立てて落ちて来た。
そこから飛び出て来たのはモモとアイ、どうやら『でんこうせっか』で無理矢理外したらしい。

「モモ及びアイ、少し静かに!」
「プラ」
「マイ」
「大丈夫か、お前ら?」
「大丈夫です、よっと」

2匹を筆頭にぞろぞろと天井の通風孔から飛び降りる彼らは、服に着いてしまった埃を払いながら、逃げて来たフロアを見渡した。
パニックの後の様に商品が散乱し、人の気配は全然感じられなかった。

「…全員連れて行かれたか」
「しかし、奴らの目的は一体何なのだろうか…?」
「それは後で考えようぜ、まずは…停電でも何とかするか」
「停電?これは奴らが意図的に落としたのでは?」
「いや、先程1人が言っていた。「何で電気が消えたんだ…?」と、小声だったけどな」
「じゃあどうしてあんなにタイミング良く電気が消えたんだろう…?」

すっかり電気が消えて薄暗いフロアで考え込む少年たちだったが、ソテツには何故停電したか大方の予想が付いていた、あくまで予想の域だが。
過去にポケモン世界で旅をしていた際に、デパートで急な停電に遭遇した事があったため、今回も同じであろうと考えていた。

「多分電気の通ってる場所で電気ポケモンが放電しちまったかもな」
「…放電?」
「おう、電気ポケモンは放電くらいするぞ」
「ちょっと待て、ポケモンとはそのような生き物なのか?」
「ポケモンには17種類のタイプがあるぞ、炎吹いたり放電したり。モモとアイも放電するし」
「プラ!」
「マイ!」
「言って無かったか?」
「初耳だ!」

ポケモンがまるでゲームに出て来るようなモンスターだったと、詳しい事の説明をすっかり忘れていたソテツだった。
とにかくこの停電は迷い込んでしまった電気ポケモンの可能性がある、その子を見付ければ停電は何とかなるかもしれない。

「しかし、見付かってしまったら元も子も無いぞ」
「マネ!マーネマネ」
「ん、どうした?」
「マネネ!」
「まさか…お前が見張っていると?」
「マネ!」
「プラ!」
「マイ!」

そう言って胸を叩いたマネネと、マネネの意見に賛同して手を上げたモモとアイ。
自分たちがあのテロリストたちを見張っていると言ってくれたのだ、確かに小さな身体のポケモンたちなら見付かり難いだろう。
その案を全員が受け入れ、先程出て来た通風孔に3匹が飛び乗ると上の階目指して走って行った。
ソテツの他のポケモンたちもいるため、何かあっても大丈夫だろう…ソテツは青ジャージの上着を脱いで腰に巻き付けると、黒いタンクトップ姿になる。

「さて、動くか」







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