POKETENI本編

□09 ピンクとプリンと裏山の事件
1ページ/8ページ

POKETENI〜ピンクとプリンと裏山の事件



本日は日曜日、午後になると雨が降ると天気予報のお姉さんが予報したにも関わらず良く晴れた日だ。
準備中の札がかけてある『かわむらすし』の入り口の前では、箒を片手に寿司屋の息子が掃除をしていた。

「良い天気だな〜…ん?」

掃除をしている河村の目に入ったのは、店の角からこちらを見つめて来るピンク色の影。
何事か、と思ってじっと見つめ合っていたらそのピンクがおずおずと顔を出して来た。

「タブ?」
「…へ?君、もしかして…ポケモン?」
「タブンネ」
「多分ね、って…」

ピンクの身体を持つ妖精の様な生き物、ふさふさとした特徴的な耳と青い瞳がこちらを見つめて来るが、明らかにこの世界の生き物では無い。
だとしたら、別の世界からやって来た捕獲屋の彼女が捕獲して回っているポケットモンスター、ポケモンではないだろうか?
ちょこちょこと効果音が付きそうな動きでこちらへよってきたその子と視線を合わせてしゃがみ込むと、そのポケモンも視線を合わせてくれた。

「タブンネって名前?」
「タブ!」
「ポケモンだよね、ヒナヅルさんに知らせた方が良いか」

その子、タブンネがゆっくりと頷くがやはり商店街にポケモンがいるのは騒ぎになるだろう。
ピチューの様にもう少し小さいサイズであれば良いだろうが、如何せんタブンネは1.1mが標準的な大きさ、小さな子供ぐらいだ。
ヒナヅルへ連絡をしようと思った河村だったが、タブンネから聞こえて来たきゅるきゅるという音に気付く。
お腹を押さえて顔を下げてしまったタブンネだったが、恐らくさっきのはお腹が鳴る音、お腹が空いているようだ。

「お腹が空いてるのか?」
「タブンネ…」
「ちょっと待ってな」

タブンネを店に入れて少し待っていて貰うと、河村が取り出したのは寿司屋の卵焼き。
修行中である自分が練習で作ったものであり、お店に出せる物ではないが食べられそうなものはこれくらいしかない。
下手に生魚をあげる訳にも行かないので、卵焼きを切ってタブンネに差し出すとタブンネは両手にとって匂いを嗅いでみる。
一口食べるとタブンネの表情は明るくなり、喜んでパクパクと食べ始めた。

「美味しい?」
「タブンネ♪」

卵焼きを全部食べ終わったタブンネは、ペコリと頭を下げると何かを感じ取った様に両耳が動いた。
そして店の扉を開けると、再びお辞儀をしてそのまま走って行ってしまった。

「ちょっと、待って」

河村が慌てて後を追うがタブンネは既に何処かへ行ってしまい、あのピンクの姿は見当たらなかった。
一体何処へ行ってしまったのか?とりあえずあの子の事をヒナヅルに連絡しようと、携帯を手にとって彼女のポケギアにコールした。







***







「タブンネ…1週間経つけど見付からないね。はい軽量スプーン」
「ありがとう。一体何処に行っちゃったんだろう?う〜ん、もうちょっとかな?」

そう言ってもう少し砂糖追加するヒナヅルと、鍋の中を覗き込むリョーマは仲良く台所にいた。
先週河村から連絡を貰って直ぐに現場に駆け付けたが、やはりタブンネは見付からなかった。
ポケモン図鑑に搭載されている追尾システムも使ってみたが反応なし、つまりは『かわむらすし』の近くにタブンネはいないと言う事だ。
それでもヒナヅルの目の届く限り色々な場所を探し、テニス部の面々も暇な時は手伝ってくれたがタブンネのタの字も見つからなかった。
一体何処へ行ってしまったのか悩みもしたが、このまま悩んでいても埒が明かないと言う事で気分転換にお菓子作りをしていたのである。
作るのはヒナヅルも好きなミルクプリン、故郷でよく食べていたカフェ山小屋で売っているモーモーミルクを使ったミルクプリンの味を表現しようと頑張っているが、やはり牛乳が違う様で曰く濃厚さが足りないらしい。
煮立てたプリン液を少し冷ましてから、郵便ピチューに並べて貰ったプリン型に流し入れ後は冷蔵庫に入れて固まるのを待つだけだ。

「ピチュー!」
「夕方には食べれるかな?」
「ニャア!」
「楽しみにしててね。結構な量が出来るからみんなに配ろうかな?」
「良いんじゃない」

余裕で20個は作れた固まる前のミルクプリンを冷蔵庫に押し込み、期待の眼差しで冷蔵庫の前で待機していたポケモンたちを抱き上げる。
エプロンを畳んで居間に座ると、リョーマがテレビの電源を入れてニュースを映し出した。
ポケモンが関東を中心に姿を現してはいるが、ニュースなどで大々的に放送されずむしろインターネット内で珍獣として話題になっていたりする。
それを知ったヒナヅルは現在、乾に習って必死にパソコンを勉強中、その珍獣に関する情報を集められるHPの制作をしてみようと思っているが上手く行かない…。
同じく機械音痴の菊丸と共に、パソコン無くても生きて行ける宣言しそうにもなった…。
結局は乾にHPを作ってもらえる事になり、自分の機械音痴っぷりを改めて自覚したのである。

『さて、次のニュースです。青春台の○○山で行われているゴルフ場計画が中止になる見通しのようです。詳しい事は不明ですが、導入している機械類が破壊されるなどの過激な反対活動の影響かと思われます。
○○山では原因不明の小規模な地震が続いており、土砂崩れの可能性もあるため注意して下さい』
「この山って確か、学校の裏山?」
「うん、部長が休日に登ってるって言った」
「ピチュ」
「きゃも」

ハイキングコースも設備されている裏山だが最近そこにゴルフ場が出来る計画が持ち上がっているらしい、しかし過激な破壊活動で中止、とキャスターが言っている。
そして原因不明の小規模な地震…ヒナヅルには頭に引っ掛かる物があった。

「もしかしたら…ポケモンかも」
「え?」
「自然破壊の場にポケモンが現れて邪魔をするって言うのはよくある事なの。小規模の地震といい、ポケモンが邪魔をしてる…?ちょっと裏山に行ってくる」
「俺も行く」
「ニャー」

手早く準備をしたヒナヅルとリョーマはそのまま裏山を目指した、ダイアナも着いて行ったが郵便配達コンビは何時の間にか何処かへ飛んで行ったらしい…。
2人がいなくなって数分後、南次郎が居間に来るとリモコンでテレビの電源を入れた。

「今日も夕方に雨か、こんなに良い天気なのにな…ヒナヅルちゃんのプリンはその頃か」



『次のニュースです。私立氷帝国学園中等部の校舎が真冬並みの寒波に襲われ、多くの生徒たちが低体温症状になり病院に運ばれました。
学園側の発表によりますと、学園の食堂に設備されていた巨大冷凍庫の扉が壊れ、開いたままになっていたと言う事です……』
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ