POKETENI本編

□11 変装と異邦人と若き氷の王
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POKETENI〜変装と異邦人と若き氷の王



初夏の爽やかな風に夏海の“顔”が流される…。
穏やかな笑みを浮かべた少年が何処か読めず、不自然で仮面を被った様な印象を抱かせたのはありがち間違いではなかった。
“夏海”と言う存在自体が偽り、整っていた表情も優しい笑みも全てが造られていた存在…。
彼、否、彼女の真の姿それは背の高い黒髪の女性、少々色黒な肌に光の角度によってはゴールドに見える瞳が良く映えた。

「……え?え……」
「ええぇぇぇぇ!!!?」×青学+ヒナヅル
「お、女の人っ?!」
「そー言う事」
「きみ…じゃなかった、貴女、は…?」

今だに動揺を隠せないヒナヅルや青学のみんなへ、やはりそうだよなと言う表情をした跡部以外の氷帝のメンバー。
一方変装を解いた彼女はコンパクトミラーを取り出し、桜色のルージュを唇に乗せると本来の彼女の姿に戻っていた。
夏海だった時から右耳だけに着けているスクウェアのピアス、最初から女性だと言っているサインは残念ながら気付く事が出来なかった。

「私は貴女と同じポケモンが存在する世界の人間。そして国際警察よ、コードネームはスクウェア」
「国際警察っ?!」

アルトヴォイスでそう言って彼女――スクウェアが取り出したのは、ヒナヅルの世界の国際警察のエンブレム。
国際警察、それは世界を又にかけて犯罪者を追い犯罪に巻き込まれているポケモンたちをも保護する組織だ。
刑事たち――エージェントにはコードネームが付けられあまりその本当の姿を教える事は少ないと言う。
しかし彼女が国際警察の刑事なら色々と納得だ、さっきの変装術もちょっとした怪我の治療技術も国際警察の人間ならば身に着けているスキル、それを活用したのだ。

実はスクウェアが夏海として臨時マネージャーをしていたのは全くの偶然だった。
偶々雇い主、つまり跡部の命令で少年として臨時マネージャーの仕事を引き受けただけだ。
だから得意の変装も顔を少年らしくして、肌と髪の色を変えただけだった。
その時、相手側の臨時マネージャーであるヒナヅルを、彼女の白い羽の簪を一目見て噂の捕獲屋である事を知り少々探りを入れていたのだ。
意図的に不自然そうに見せたのも、そうすれば彼女が何かアクションを起こすのではないかそう思って実行してみたが、捕獲屋は噂通りの捕獲屋だった。
今考えるとこれは出会うべくして出会った必然ではなかったのか…?そう思ってしまった。

「さて、何処から何処まで聞きたい?と、その前に…ヒナヅル、先にその傷を治療させな」
「あ、どうもありがとうございます…。聞きたい事はたくさんあります、貴女の事、そのフリーザーの事」
「だよだよ!跡べーが伝説のポケモン持ってるってどう言う事?!」
「それ俺も聞きたい」

跡部の肩から下りて近くの高い建物の屋根に停まり、優雅に美しい羽を毛繕うフリーザー――シェーンは伝説に分類されるポケモンだ。
雪山で遭難し死を目前とした者の目の前に現れ、時にはその美しく素晴らしい尾羽から雪を降らせて冬を運ぶ伝説の氷の鳥。
しかしシェーンはポケモン図鑑に載っているフリーザーのデータと比べると小柄、一般的な体長が1.7mであるのに対しシェーンは少し頑張れば跡部の肩に乗れる大きさだ。
まだ成長し切っていはいない、若いフリーザーであるのだろう。
だからさっきの『ふぶき』でウツボットは瀕死にならなかった、威力がまだ小さいからだ。
しかしそれでも普通の氷ポケモンが覚える『ふぶき』と比較しても強力なもの、これから育てば伝説の名に相応しい強さを持つ事が出来るだろう。

「『雪を降らせる伝説の鳥ポケモン』…そいつがニュースの事件の原因か?」
「はい、教職員でも本当の事を知る者はいません」

私以外は、竜崎の問いかけにそう答えた榊、本当の事を知られてしまったら大騒ぎになる、シェーンも無事では済まないだろう。
保健所や研究所、その様な色々な組織がポケモンを保護したと言う噂を聞かないが、氷帝でポケモンの存在を隠した榊の判断は正しかった。

「伝説の鳥ポケモン、俺に相応しいポケモンだ。勿論俺様自らがゲットした」
「半分以上姐御のお陰やけどな」
「ピー」

高々と言いのけた跡部だったが、忍足の言葉とシェーンの言葉がシンクロして半分以上は姐御、つまりはスクウェアのお陰でゲット出来たと言うのだ。
しかしフリーザーが此処まで跡部を同等と、相棒の様に見なしているのは彼を認める出来事があったと言う事とも取れる。
そうしている内にヒナヅルの治療も終わり、薄い傷があっと言う間に目立たなくなっていた。

「それで、貴女の事も聞きたいけどまずは私」
「どうしよう、何処から…最初からお願いします。国際警察の貴女がホウエンにいた事、フリーザーの事も」
「……前者の事については知ってもらった方が良いわね。ホウエン地方の自然保護団体、マグマ団とアクア団の活動が悪質化しつつあるのを見て、本部の命令で私がホウエンに派遣された」

超古代のポケモンたちの能力を覚醒させ、陸を増やし海を増やそうとした両組織。
彼らが掲げていたのは自然保護、失われつつある自然を回復させようと突きつめた結果がこれ…ホウエン災害、異世界への迷い人…。
あの時スクウェアは両組織のリーダーであるマツブサとアオギリを追ってルネシティを目指していた、しかしホウエンから本部への情報伝達が遅く、既にグラードンとカイオーガを覚醒してしまったのだ。
ポケモンたちの能力で荒れるルネに到着したスクウェアを足止めしたのはマグマ団とアクア団の団員各1名のタッグ。
利害一致と言う事でタッグを組んで彼女とポケモンたちと闘っている最中に、クライマックスを迎えてあの光に飲み込まれたのだ。

「色々あったわ、ホウエン地方でも氷帝(ココ)に落ちてしまってからも」
「あの…貴女の名前は?コードネームではなく、本当の名前」
「……ふふ、本名はツグミよ。よろしく、ヒナヅル」

スクウェア――ツグミは優しく微笑むと、ヒナヅルへ向けて手を差し出した。
一体、此処氷の帝国で何があったのか……?







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