POKETENI本編

□13 犬とグラサンと終着駅
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POKETENI〜犬とグラサンと終着駅



横浜の方でギャラドスやら捕獲屋やら軽業師やら色々あった日の前日、東京はゲリラ豪雨に襲われた。
丁度夕方の時間帯に降り出した雨はほんの数十分で収まったが、下校途中の中学生をびしょ濡れにするには十分すぎた。

「折りたたみ傘が壊れるんなんて激ダサだぜ…」

部活を終えた宍戸もこの雨の威力に折りたたみ傘を圧し折られ、まるで川に落ちたかの様にびしょ濡れだった。
家族に迎えに来てもらった方が良いかもしれないが、本日父は出張、兄はバイト、母はテニススクールのママ友と食事会だったため家で待っていてくれるのは愛犬ぐらいだ。
早く帰って熱いシャワーを被って、愛犬とじゃれようかと思って走る脚を速めるが小さく弱々しい声が聴こえて来たのに脚を止める。
周りは住宅地から少し離れた交差点、通りすぎてしまったが簡素な公園もある。
小さな声は公園から聴こえて来る…嫌な予感がした宍戸は公園に入り、水溜りに注意しながら公園を散策しているとペンキの禿げかかったベンチの下に震えている影を見付けた。

「っ?!オイ、大丈夫か!しっかりしろ!」
「……キュ…」
「ヤッベ…少し我慢してろ、今……!」

ベンチの下にいたのは仔犬、しかしただの仔犬では無く全身傷だらけでかなり弱っている。
しかも体毛はオレンジ色で黒のトラ、普通の犬に見える様で見えない…何処か違和感のある犬だったのだ。
宍戸の脳裏に浮かんだのは、跡部のボディーガードとして雇われた刑事、その彼女の仲間である不可思議の存在、ポケモン…。
まさかこの犬はポケモンではないか、そう思って止めた手だったが目の前の仔犬は傷付いた身体を必死に起こし、声を低く呻らせて威嚇をしている。

「グルル…」
「大丈夫だ、何もしねえ!落ちつけよ…」
「グル……キュ……」
「オ、オイ!!」

宍戸に向けて威嚇をしていたが、弱った身体は限界だったらしくそのまま地面に倒れてしまった。
慌てて抱き起こすがその身体が異常に冷たい…雨による体力の消費が激しすぎるのだ。
焦った宍戸は荷物を担ぎ直し、仔犬を抱き抱えると猛ダッシュで家を目指して走り出した、彼の瞬発力は見事である。
この仔犬がポケモンである可能性がある以上下手な獣医にも診せられない、だからまずは自分が保護してその後に彼女へ連絡を入れようとしたのだ。
まずは冷えた身体を温めるために風呂にブチ込む、犬に関しては一般以上の知識がある宍戸だが今の状況ではそれしか考えられなかった。
豪雨の中を走り抜けて家に着くと、出迎えてくれたのは大人しくお留守番をしていた愛犬だった。

「きゃん!」
「ジェイ、ちょっと待ってくれ。コイツが大変なんだ!」
「くうん?」

宍戸家の飼い犬であるジェイ(雑種)、人間で言うとオッサンな年齢であるこの犬は飼い主に似たのか何処か面倒見の良い犬である。
宍戸の腕にいる弱った仔犬を発見すると、何があったか解らないが大変な事になっているのは理解したらしい。
びしょ濡れの服のままバスルームに突撃した宍戸はシャワーを勢い良く出すと、熱いお湯が直撃する。
雨で冷えた自身の身体もそうだが、腕の中の仔犬の体温が少しだが温かくなったのを確認すると今度はバスタオルに包んで優しく撫で始める。

「頑張れよ、今専門家に連絡入れてやるから」
「…キュ……」

小刻みに震えだした仔犬をバスタオル越しに撫でながら、携帯を手に取り最近アドレス入りをした番号にコールを入れる。
まさかライブキャスターまできちんと使えるなんて持ち主は思っていなかったらしい…テレビ電話は流石に無理らしいが。







***







RRR…RRR…RRR…

「もしもし亮、どーしたの?」
『大変だツグミ!ポケモンかもしれねえ犬が傷だらけで…!』
「……!その犬の特徴は?」

腕に着けているライブキャスターが表示した名前は雇い主のチームメイト、ポケモンの存在を知っている少年たちの一人だ。
逆さまの状態で電話に出たツグミは、その緊急電話に表情を変え一旦を止めた。
え、何で逆さまだって?
実は彼女がいるのは跡部邸のトレーニングルーム、最新のマシンが揃いシャワールームどころか整体施設まで完備されている。
現在進行形でツグミは跡部と共にトレーニングの真っ最中、身体が資本の刑事はいざという時のために鍛えておかなければならない。
そして彼女が使用しているのはぶら下がり健康器の様な小さめの鉄棒、それに脚をかけて逆さまになり腹筋をしていたのだ…伊達に国際警察やっていない…。
ツグミの声を聞いた跡部も一旦機械を止め、フリーザーのシェーンも何事かと思いこちらへ飛んで来た。

『オレンジの毛に黒のトラ模様だ』
「それはガーディ、炎タイプのポケモンね…。さっきの雨も気になる、まずは身体を温めて。炎タイプは体温を保てないと死に至る!」
『解った。その、ガーディは俺の家にいる、家族は誰もいないから』
「ラジャー、直ぐに向かう」

そう言ってライブキャスターの電源を切ったツグミは鉄棒を脚力で一回転してから下りると、タオルで乱暴に汗を拭いて宍戸家に向かう事にした。

「ツグミ、宍戸がポケモンを保護したのか?」
「そーらしい、炎タイプにこの雨はヤバい…きずぐすりを揃えて向かうよ」
「ミカエルに車を出させる。俺も行くぞ」
「ピー」

タオルと片手に水分補給はしっかりと、シャワーも浴びずに車に乗り込んだツグミと跡部は宍戸家に急いだ。
ありったけのきずぐすりと、自分が持てるだけの治療の知識を持って。
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