Searcher本編

□02 Tea Room
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グルメ時代で食材偽装と言えば、産地を偽装するなどではなく食材その物を偽装する事だ。
例えば、発毛効果のある『キューティクルベリー』と表示しているのに、蓋を開けてみたら普通の苺だったし発毛効果もなにもなかったと言う事件が昔、起こった事がある。
その件は誰も気付かなかったし、プラシーボ効果で髪が生えたかも〜と錯覚しただけで終わったが、問題なのは人体に有害な食材だ。

「昔、『ボーダーサーモン』が食感・風味がよく似た『ストライプサーモン』としてレストランで出された。ボーダーサーモンの価格はストライプサーモンの三分の一で安価だが、鮮度が落ちやすい」
「つまり、ボーダーサーモンをストライプサーモンとして扱った事で、食中毒を出してしまったと」
「そう言う事だ」

衛生管理には気を付けなければならない食材、調理する者の技術がなければ命に係わる毒を含んでいる食材など、様々なものが蔓延する今の時代では少しの偽りが生命の危険に繋がる事もある。
トリコが語った事件でも、鮮度が落ちたボーダーサーモンによって何十万もの食中毒者を出してしまったのだ。
調理の仕方を間違えれば美味にも毒にもなる溢れんばかりの食材たち、それらを適正に管理・表示する事を定めているのが『グルメ八法』であるが、未だにそれを犯す者が後を絶たない。
偽装したものによっては無期懲役以上の刑の執行が待っている罪が、まさか身近にあるホテルで行われていたとは…HOTEL GOURMET 小松の『センチュリースープ』により六星にランクアップした、IGO直属のホテルである。

「このカフェテラスは、入った事ねえな」
「しかし、同じホテルの店舗ですし、小松さんも大変な事になっているのでは?」
「う〜ん…様子を見に行ってみるか」
「おでかけするの?」
「小松のところに行くぞ」
「コックさんのとこ?いくー!」
「それじゃあ、歯を磨いて着替えるよ」
「っ!」

朝ご飯は食べた、ならば残っているのは歯磨きと着替えだけ…歯磨きは別に良い、仕上げはおとーさんだから。
父の発した「着替え」の一言で全てを察知したノバラが逃げ出すと、小さなサイズの靴下を持ったシランが追って来たのである。
実はノバラ、靴下が嫌いであり気が付くといつも脱いでいるのだ。
靴下から逃げる彼女と、靴下を履かせようと追いかける父との攻防戦は今にも始まった事ではないが、此処数日はお菓子の家を舞台に展開されているのである。

「くつしたイヤー!サンダルがいい!」
「サンダルは転ぶから駄目!ちゃんと靴を履きなさい!」
「お前ら、毎朝飽きないな…」

結局、ノバラが出発時間ギリギリまで逃げ切って本日は裸足にサンダルとなりました。
本日の彼女のコーディネートは、猫の顔と耳が付いたフードのワンピースとレンギズで可愛くまとめてみました。







***







IGO(国際グルメ機構)直属機関・『HOTEL GOURMET』、このホテルの最上階に位置する『レストラングルメ』が、小松が料理長を務めるレストランである。
彼の復活させた世紀の味であり、トリコのフルコースのスープである『センチュリースープ』の完成によって六星にランクアップした事により、連日予約が絶えない人気レストランとなった。
そんな超有名なホテル内のカフェテラスで行われた食材偽装と言うスクープをマスコミは放っておく訳がなく、ホテルの前はカメラを持った人々によってできた黒山の人だかりとなっている。

『今回、食材偽装が行われたのは32階のカフェテラス『カフェ・まいまい』。調査によると、コーヒー豆の『サファイアマウンテン』を、価格が五分の一程度の『青空豆』に変えて提供していたそうです』
『『青空豆』は確かに一口目やその香りは『サファイアマウンテン』に似ていますが、後から来るコクや苦み、鼻に通る渋みはサファマンの足元にも及びません。誰も気付かなかったんですかね〜』
『逮捕された責任者のゾーギ容疑者は、「浮かした金はギャンブルにつぎ込んだ」と取り調べで供述しているとの事です。現場である『ホテルグルメ』前から中継が届いています、現場のティナさーん』
「はい、こちら『カフェ・まいまい』が営業をしていたホテルグルメ前になります。ニュースを聞き付けた人々によって、てんこ盛りの人だかりになっております…あ、トリコ!」
「ちょ、ティナ!」
「クルッポー」

グルメTVのニュースキャスター・ティナは本日、慣れ親しんだ『ホテルグルメ』の前から中継を届けるはずであったが、カメラマンの回す画像の中から消えてしまった。
このホテルで最も有名な料理人とコンビを組む彼ならば、有益な情報を1gも逃さず手に入れられるかもしれないとマイクを向けたのだ。

「ティナじゃねえか」
「トリコ、久しぶり!ホテルグルメに来たと言う事は、ニュースを観たのね」
「まあな」
「あら、そちらの方は?」

何度か狩りに同行取材(と言う名の強行)をした美食屋の隣に、見慣れぬ細身の男性と、彼と手を繋いでいた小さな女の子がいたのだ。
小松のような料理人やトリコと肩を並べる四天王の関係者でもないだろう、だとしたら何者なのか?

「私は、シランと申します。数日前から、トリコさんのところに居候させて頂いています」
「居候?へえ〜あら、どうしたの?」
「…これ、テレビ?」
「そう、テレビよ」
「ぜんこくほーそー?」
「ま、まあね」

マイクを持ったキャスターのお姉さんと、彼女を追って来たテレビカメラを持ったカメラマン、しかも全国放送であると聞いたノバラはシランの腕をぐいぐいと引っ張りトリコの後ろに隠そうとしたのだ。
まるでテレビカメラから彼を隠そうとする動き、それにはシランも驚いた。

「ノバラ、どうしたんだ?」
「おとーさん、ぜんこくほーそーされちゃう!」
「全国放送されちゃ駄目なの?」
「クルッポ?」
「おとーさん美人だから、ぜんこくほーそーされちゃったら、女の人がお店にいっぱいきておとーさんとられちゃう!」

つまり、大好きなおとーさんが彼目当てのお客さんに取られたくないと言う、彼女なりの抵抗であったのだ。
ノバラの真意を隣で聞いていたトリコは思わず笑ってしまい、おとーさんは肩を震わせて娘からの嬉しい一言を噛み締めていた。
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