POKEBASA本編

□01 異世界へ
2ページ/3ページ








***








全ての準備を終えたヒナギクは、トゲキッスに乗ってテンガン山の山頂に来ていた。
黒い渦はさっきパソコンで見た画像より小さくなっている、恐らくこのままでは完璧に閉じてしまうだろう。

「トゲキッス、行くよ」
「キッス!」

ヒナギクの装備はポケギアと携帯用の転送システム、回復用のアイテムやきのみ、オーキド博士から借りた全国版のポケモン図鑑、そして捕獲用のボールバズーカと呼ばれる小型バズーカに数えきれないほどの大量のモンスターボール。
それを何故か全てを収納できる謎のリュックを背負い、愛用のキャスケット帽を被り直してトゲキッスと共に渦の中に飛び込んだ。
この渦の向こうは、“異世界”と言う、旅をした事のない場所に繋がっている。
見るモノや聞くモノのみならず、理も全てが異なる世界…ポケモンたちが存在していない世界へ、彼女は捕獲屋として向かった。
ポケモンたちを捕獲し、彼らが生きるべき場所へと連れて行くための旅へ―――











「オーキド博士、ギンガ団はどうやって異世界への扉を開いたんですか?」

かなり長くなるであろう仕事へ出かけた妹を見送ったヒナヅルは、パソコンを通してオーキド博士と会話をしていた。
『ギンガ団』のリーダー・アカギはシンオウに眠る3匹の幻のポケモン、『感情』を司るエムリット、『意志』を司るアグノム、『知識』を司るユクシーから抽出した生命エネルギーの結晶である『赤い鎖』を利用し、『時間』の神ディアルガ、『空間』の神パルキアを捕まえ新たな世界を創造しようとした。
その企みは少年トレーナーたちと、彼らの相棒であるポケモンたちによって阻止され、アカギは自分が生み出し損ねた不完全な宇宙に足を踏み込み、この世界から消えてしまったと言う。
シンオウ地方全体を巻き込んだギンガ団事件は、こうして幕を閉じたと思われていたのだ。

『解らん…しかし、あの穴が開く前後に巨大なエネルギーが発生したことは確認されておる』
「つまり、伝説クラスのポケモンが関わっているかもしれないと」
『そうとも言える』

ポケモンにはまだまだ謎が多い。
特に『伝説』や『幻』に分類される種類は未だに解明できない謎を持っているものもいる。
その『伝説』たちが起こす現象は、人間の想像を遥かに超えることもあり、周りの環境やはたまた世界までにも影響を及ぼす。
もし、今回の事にそのポケモンたちが関わっていたとしたら…?

「無理矢理従えたか、首謀者は彼らが認めるほどの実力者であるか…。どちらにしろ、一筋縄じゃいきませんね。ヒナギだけで大丈夫かしら?」
『その事じゃが、オーレ地方にいる知人に連絡が取れ次第、別の対策を練るつもりじゃ。もしかしたらヒナヅルくんの能力も借りるかもしれん』
「…もう引退した人間を表舞台に出すんですか。しょうがないですね…解りました、具体的な案が出来次第連絡を下さい」

そう言うとヒナヅルはパソコンの電源を切り、傍にいたエネコロロの頭を優しく撫でた。
彼女の名前はダイアナ、月の女神の名を持つこの子はヒナヅルのポケモンではない…その日が来るまで、本来のトレーナーから預かっているのだ。

「ダイアナ、もしかしたら再会の旅に出るかもしれないわ」
「ニャール」

短いショートヘアの黒髪に指を通しながら、ブーツの音を響かせて部屋を出て行った。








***







時は戦国、世は乱世―――
主君に牙を向けて成り上がる下克上が高まるこの時代は、誰もが天下を狙う時代。
荒れて乱れるこの国を統一する覇者は誰か?
後の歴史に英雄として名を残すのは、一体誰なのか?
戦火と熱気が渦巻くこの世界の各地で、様々な物語を紡ぐ英雄たちが戦い、敗れ、そして生き抜いていた。



山陰地方安芸の朝。
高松城が城主・毛利元就は習慣である日輪の参拝をしていた。

「日輪よ…」

日輪――太陽に今日これからの信仰を捧げ奉った智将の元に現れた物、それは日輪のから降ってきた大きなタマゴ…。

「これは…?まさか、そなたは日輪の使者か」

氷の仮面とも囁かれる智将は、その大きなタマゴを真顔で受け止めた。



様々な物と人が行き交い、貿易の拠点ともなる堺の街――
人々で賑わう大坂の市にて、偶然そこを訪れていた大坂城城主・豊臣秀吉はある店で足を止めた。

「豊臣様、どうです?この大きな卵、滅多に見付かりませんよこんな大きさ」
「これを貰おう」

視察に出た先で、商人に勧められたそのタマゴを見た瞬間、最近体調の悪い戦友に精を付けてもらおうと購入したのだった。



越後は山岳の平白・春日山城――
軍神との異名を持つ美しき関東管領・謙信と、彼が美しきつるぎと読んで寵愛するくの一の目の前にあるのは、麓の民衆たちから献上されたのは大きなタマゴだった。

「これはまためんような」
「謙信様、この卵は妖しすぎます」
「まちなさいわがつるぎ。このたまごがかえったらどのようなとりがかえるのでしょうか…?」

大きな卵から、何かを感じ取ったのか?軍神は興味津々でタマゴを孵すことに決めた。



甲斐は武田、虎の土地――
若き虎が武田信玄に任された上田城近くの森で、森林の中に紛れ込む忍…佐助は、何処かに走って行ってしまった自分の主を探していた。

「佐助ぇぇぇーー!」
「旦那、何処行ってたの…って、何その卵?早くお母さんに返してきなさい!」
「この卵は川を流れてきたのだ。某が孵そうと思う!」
「旦那に出来るわけないっしょ!ってか大きすぎでしょその卵!」

主こと、真田源次郎幸村が抱えて来たのは大きなタマゴ。
明らかに怪しいこの卵からは、一体何が孵るのか?



奥州は北の大地・米沢城――
竜と名乗る奥州筆頭の数多くある趣味の中に、料理があると言うのはどれだけの者が知っているだろうか。
久々に料理に没頭しようと思っていた奥州筆頭こと伊達藤次郎政宗は、野菜が入った籠の中に何故かあった大きなタマゴを見付ける。


「Hey, 小十郎。何だこの卵は?」
「何時の間に入り込んだのでしょう?しかしこの大きさは…」
「何が孵るか…HA! 面白そうじゃねえか!」

その日、日ノ本と呼ばれる極東の島国に落ちたのは、海の外よりも遠く隔たりを持つ異世界の住人たち…ポケットモンスターと呼ばれる彼らと、まだ硬い殻に包まれたタマゴたちだった。
戦国の世に降り立ってしまった彼らは、ある意味被害者であった。
右も左も解らない、周りの人間はポケモントレーナーでもない…その世界に落された彼らはただ戸惑うしかない。
そして、ポケモンたちの他に降り立ったのは明らかにこの世界に住人ではない、明らかに友好的な感情は抱いていない人間たち…この世界にとって異分子である彼らは、異質な目をこの日ノ本に向けていたのだ。
物語は幕を開ける。
ポケットモンスターたちが繋げた、英雄たちの物語が―――





→あとがき
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ