POKEBASA本編

□10 迫る影、傍にいたい想い
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「何だっ!?今の悲鳴は?!」
「魔獣です!黒い魔獣が城内に侵入したと!!」
「城内に侵入するとは悪!!即刻削除する!!」
「長政さま…市は…」
「来るな市!私1人で十分だ、この部屋から出るな!」

本心を言うと危険だからこの部屋から出るな、と言いたいのだが、如何せん長政の口は天性の天の邪鬼。
大切だと思っている妻に対して厳しい事しか言えない…時にはその事を後悔するが、今はそんな余裕は無い。
城の者たちに危害を加えないために、この部屋にいる市を守るために剣を携え魔獣の元へと急いだ。
しかし護りたいと思っていた市の心には真っ黒な物がぐるぐると渦巻いていた。

「ねえ…長政さまは市が邪魔なの…?市は…長政さまの役に立ちたいのに…」

もしこの卵から強い魔獣が生まれれば長政の助けになるかもしれない、そう思って孵している卵に顔を沈めながら、まだ生まれてもいない魔獣に話しかけるように市は呟いた。
最初、自分は兄信長が仕掛けた浅井の力を削ぐための刺客、嫁入りもただの建前でしかない、自分の使命は浅井を潰す事……だった。
けれど惹かれてしまった、彼に夫に長政に。
正義を貫き、悪を許さない厳しい人、しかしその中に見せる優しさ…初めてくれた白百合は今でも押し花にしてとってある。
殺伐とした織田で育った市が触れた不器用な優しさ、何処か温かい、心地良い彼の傍。
だから長政の役に立ちたい、実兄を敵に回しても、許してくれなくても、自分はあの人の傍にいたい…。
けれど……。

「…長政さま……」

そうすれば良い?どうすれば彼の傍にいられるの…?
市が抱きしめている卵が静かに、母の胎内にいる胎児のように微かに動いた。

一方、無理矢理城内に土足で入り込んだヒナギクと慶次は、既に魔獣が出現したと言う情報を掴んでいた。
以前慶次がこの城に滞在していた時期の知り合いが教えてくれたその情報、現れた魔獣を何とかしようと浅井の兵たちが攻撃を仕掛けているらしいが、刀も槍もはたまた火縄銃もその魔獣には効かなかった。
まるで影のように、壁も刀も槍も火縄銃の弾も全てをすり抜ける魔獣は何かを探しているように城内を徘徊しているらしい。

「刀も槍も効かない…ゴーストタイプか…急ぐぞ、その魔獣には普通の攻撃は効かない」

この世界の婆娑羅が特殊攻撃に相当するなら、その魔獣に攻撃を与えられるのは婆娑羅者であると言う浅井家の当主とその奥方だけだろう。
でも魔獣を無駄に傷つけさせないために、すぐにでも捕獲してやりたいところだが如何せんそうはいかなそうだ。
ゴーストタイプは普段、人気のない廃墟を好んで住み着くが、このように昼間から人間の住む建物に侵入するのはかなり珍しい。
何か理由がある…ヒナギクの頭を過ったのはタマゴの存在…もしかしたら奥方が孵しているといタマゴの親なのではないか…?

「理由を突き止めれば穏便に済まされるかもしれない。誘き出すぞ、ロズレイド!」

ヒナギクがボールから出したのは薔薇の化身の様な花の魔獣。
その両手の花を振りかざすと人間も思わず惹かれてしまう甘く心地良い香りを出した。
魔獣を誘き出したり、その香りで回避率を低下させる技『あまいかおり』、この匂いを嗅いだ魔獣は十中八九誘き出される。
思った通りに、城の壁を抜けてその姿を現したのは黒い影…毒ガスから誕生したと言われているゴーストだった。

「やっぱりゴーストか、トゲキッス!」

飛行タイプの他にノーマルタイプを併せ持つトゲキッスならゴーストタイプの攻撃を無効化出来る。
そう思ってトゲキッスを出したのだが、このゴーストは思った以上に何処か必死だった…。

「トゲキッス『つばめがえし』!」
「キッスー!」

捕獲するには倒してはいけない、まずは小手調べとしてトゲキッスに指示を出したヒナギクだったが、相手は予想以上のレベルであったようだ。
『つばめがえし』を避けると、繰り出したのは黒い波導、悪タイプの技である『あくのはどう』だ、どうやら頭も良いらしい。
そして間髪入れず目を光らせると『あやしいひかり』、思わず近江に来る前に半兵衛と行ったバトルを思い出した。
混乱してしまったトゲキッスをヒナギクが一旦ボールに戻すのと、この城の城主がその場に駆け付けたのは同時であった。

「我が城に入り込んだ魔獣、そして前田慶次!何故此処にいる?!それに…貴様は豊臣の魔獣使いか…?!」
「いや、確かにそうだけど、私は…」
「無言即殺!この騒ぎは貴様のせいか?!」

確かに今の光景だけを見れば、ヒナギクたちがゴーストを嗾けているようにも見える。
魔獣使い、その肩書があれば誤解はされる、ヒナギクが豊臣の命令で魔獣を送り込んだと。
しかし誤解を解く余裕もなかった。

「ゴス!!」
「…っ!待てゴースト!!」

ヒナギクの一瞬の隙をつきゴーストは長政の方へ向かって行った。
長政は剣を抜きゴーストに斬りかかったが、本来彼が持つ光の婆娑羅を纏っていないただの剣ではゴーストを捕らえることは出来ず、長政の身体ごとすり抜けその場から逃亡したのだ。
まるで何かを探しているかのように、必死の形相で、何かに縋りつくかのように。

「一体どうして…。あの先には何か?」
「…市、市!!」

ゴーストの向かった先に何があるか、誰がいるか、考えなくても長政の態度でそれは一目瞭然であった。
今の今まで敵視していたヒナギクや慶次など眼中になくなったように、必死にゴーストを追った。
ゴーストの目的は市なのか、市が抱えている物なのか、それともまた別の物なのか……。
それはゴースト自身にしか解らないだろう、何を求めているのか、何があったのか。
けれど人間たちにも出来る事があった、ゴーストを追う事、市の部屋に向かう事である。



「貴方は誰……?市を迎えに来たの?」




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