Liberator本編

□事 の 発端
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最近は本当に便利になった。
モンスターボールや手持ちのアイテムを電子化し、パソコン通信でボックスに送る技術もさる事ながら、交通網の発達も着実に進んでいる。
ポケモンたちの住処を荒らさないためにその歩みはゆっくりとしたものであるが、コガネ・ヤマブキ間にリニアモーターカーが開通したと言うのは大きな発展であった。
別の地方をリニア一本であっと言う間、なのでカントー地方マサラタウンに住むオーキド博士も週一でコガネシティを訪れる事ができるのだ。

「そろそろ1か月だが、キャンパスライフはどうかな?」
「はい、色々と慣れてきました。学生寮の人たちも、良い人たちばかりですし。明日からはオリエンテーションなんです」

ラジオ塔の中に入るカフェで、オーキド博士とフィットニア、そして黒髪の青年は軽くお茶をしながら楽しげに話していた。
博士の母校であり、名誉教授も勤める名門校・タマムシ大学に飛び級で入学したフィットニアは、奨学金をもらいながらポケモンドクター、ひいては人間のドクターを目指している。
15歳と言う最年少記録で入学を果たしたIQ210の天才少女であるが、オリエンテーションのしおりを楽しげに見せるその表情は随分と幼く見えた。
オリエンテーションは明日から二泊三日で、コガネとエンジュシティを周りながら新入生たちの交流を深めると言う趣旨のもの。
同級生たちと泊りがけの旅行、今までそんな経験がなかった彼女は随分と楽しみにしているらしい、前日の彼女は遠足を楽しみにして寝付けない子供のそれであった。

「それで博士、私を呼んだ訳とは?」
「おお、忘れていた……これを、少し遅れたが入学祝じゃ」
「これ…」

テーブルに置かれたのは灰色の長方形の機械、濃い桃色のモンスターボールが象徴するのは今の時代だ…ポケモンと人間が共に生きる、この時代。
新デザインに変更され、イッシュ地方で新人トレーナーに配られている旅のお供、ポケモンと出会う度にそのページが増えて行くと言う夢のような機械――ポケモン図鑑であった。

「ポケモン図鑑、良いんですか?こんな貴重な物」
「構わん。君もトレーナーとしての一歩を踏み出したんじゃ。本来ならば、旅を終了したトレーナーからは回収されてしまうが、特別じゃぞ」
「あ、ありがとうございます!」
「……」

ポケモン図鑑を手にしたフィットニアは、彼女の隣に座る青年に図鑑を向けると図鑑はポケモンのデータを読み込んで画面にそのポケモンの姿が映し出される。
黒くスマートな獣人型のポケモン…何時の間にか、フィットニアの隣の青年はそのポケモンの姿になっていたのだ。

「『ゾロアーク、ばけぎつねポケモン。ゾロアークを捕えようとした人を、幻の景色の中に閉じ込め、懲らしめたと言われる』凄い、『イリュージョン』で幻影を見せていても、ちゃんと反応するんですね」
「ギャウ」

特性でその姿を幻影によって人間の姿に見せていた彼女の相棒・ゾロアークも、この最先端のハイテク機械は誤魔化せないらしい。
フィットニアの指紋を図鑑に登録すれば、正式な持ち主は彼女となる。

「…あの、オーキド博士」
「ん、どうした?」
「友達って、どうやったらできるんでしょうか?私、今まで友達がいなかったので」
「……」

大衆に迫害され、その存在さえも否定されて生命までも狙われた…人生の半分を母と共に逃亡していた彼女にとって、普通に友達を作ると言う事はハードルが高いのだろう。
相棒となったポケモンたちとも違う、人間の友達…。
事件のほとぼりが冷めるまでのこの3年間も、国際警察の保護を受けてひっそりと、そして夢に向けて我武者羅に生きて来たために回りを見渡す暇もなかった。
やっと落ち着けた、医学生となり故郷であるカントー地方に腰を据えた今からが、彼女の子供らしい青春の始まりなのだ。

「友達とは、自然にできているものじゃ。よく言うじゃろ、「昨日の敵は今日の友達」と。昨日、ポケモンバトルをした敵も1日経てばその実力を認め合った友達じゃ。ポケモンが好きなら、きっと自然に友達ができる。フィティ、君にもきっと…苦楽を共に分かち合える、かけがえのない友人、仲間に巡り合える。きっとじゃ」
「っ!はい!」
「それに、今まで友達がいないと言ったが、君に手を差し伸べた“彼”は友達ではないのかな?」
「か、“彼”は…憧れ、なんです。私の憧れの人」

自然と、その手が髪に結んである組紐に伸びる…紅珊瑚の根付けが付いた菜の花色の組紐は、実は異世界から来た物だ。
これをくれた少年は、フィットニアに手を差し伸べて自信と勇気を想い出させてくれた大切な人。
このポケモン図鑑と色違いの図鑑を持つ、相棒のピカチュウと一緒に太陽のように笑う“彼”…あれから3年、どうしているのだろうか?
約束した。
いつか、お互いに立派な姿になって再会しようと…再開したら、バトルをしようと。
“彼”に再び会える日を、そして、母と再びトキワシティのあの家で暮らせる事を願って、フィットニアは相棒たちと共に前へ進んで来たのだ。

「お母さんは、どうしている?」
「定期的に面会に行っています。あまり来なくて良いとは言っていましたが…私の事、心配してくれているんですよね。犯罪者の娘と、後ろ指を刺されないように」
「…突き放すのも、親の愛じゃ」
「でも、大丈夫です。私は、何時までも母を待っていますから」

そう言って、彼女は明るく微笑んだ。



『コガネラジオがお送りする、本日の天気です。本日はジョウトもカントーも全域快晴!ただし、ジョウト地方ワカバタウンで突風が観測されました。リスナーの皆さん、念のために気を付けて下さいね』



ジョウト地方ワカバタウン――始まりを告げる風が吹く町…。
新しい物語のページを開くように、その町では突拍子もない風が吹いた。
キャスケット帽を空に舞い上げたその風は、始まりを告げた…新たな冒険、次の物語、世界の変化の幕開けを―――







「博士はもうヤマブキシティに着いたかな?」
「……(コクン)」

ジョウト地方コガネシティ、歴史の眠る西の地方最大の都市であり歓楽街も多く並んでいる。
その都市に住み商いをしている者もいれば、自身の仕事のためにやって来ている者も、旅の途中に立ち寄りポケモンたちと己を休めている者も存在する、何万もの人間とポケモンが行き交う都市だ。
物語は此処から始まる。
地面が大きく揺れた、その瞬間から―――

「……!」
「っ!?地震!」

その日、コガネシティは震度4の地震に見舞われた。
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