POKETENI本編

□09 ピンクとプリンと裏山の事件
2ページ/8ページ




青春学園の裏には少し歩けばハイキングに持ってこいな山がある。
休日にもなれば運動がてらに登る御老人や、仲良くピクニックをする親子連れが訪れるこの山は山男子、手塚もよく登る山だ。
しかし、此処を切り崩してゴルフ場にしようという計画が持ち上がり、地元住民の反対を押し切って実行される事になってしまった。
それが最近、過激ともやりすぎとも言える妨害活動によって中止になったのだ。
工事現場に置かれていた重機が一晩の内にひっくり返されたり、壊されたり、酷い時にはたくさんの岩を投げ込まれて整備した地面が穴だらけとなった事もあった。
過激ともやりすぎとも、人間業ではないとも言えるこの妨害と工事中に発生する小規模な地震が止めとなり、計画は中止せざるを得なくなったのだ。
この日曜日に山に登りに来た手塚は、山から撤退しようと重機などの片付け作業をしている光景を眺めていた。

「ゴルフ場計画の中止…。こんなにも山を切り開いてから中止しても、遅いのでは?」
「ピチュー!」
「きゃもー」
「ん、ピチュー、キャモメ」

上から聞こえた聞き覚えのある声に空を見上げてみると、そこから下りたのはピチューとキャモメの郵便配達コンビ。
キャモメが急にピチューをパっと放すとピチューはそのまま手塚の腕の中に収まり、キャモメは手塚の頭の上に停まった。

「ピチュ!」
「きゃも」
「おはよう。どうしたんだ?」
「きゃーも」

キャモメが翼で向こう側を指すと、そこに見えたのは少し急ぎ気味でハイキングコースを登って来るヒナヅルとリョーマ。

「国光、来ていたのね」
「ええ……。ヒナヅルさん、越前、何だその服装は……」
「「え?」」

現在のヒナヅルの服装、キャミソールにパーカー、細身にジーンズ、そして何時もの7、8cmはヒールがあるブーツ。
元の世界でもこんな格好で山を越え海を越え、テンガン山に放り込まれても無傷で生還したが山登りを趣味とする者にとっては山をナメすぎている服装である。
ちなみにリョーマはハーフパンツにジャージ、テニスシューズだがヒナヅルの服装よりは動きやすそうだ。

「山をナメてはいけません!いくら小さな山だからと言って、急な気候な変化や万が一の際の準備はきちんとしなければ!今日は夕方から雨が降るようですし」
「部長は山の事になるとこうなるらしいよ…」
「と、とりあえずごめんなさい。この格好の方が動きやすいから…」

ブーツで山など言語道断な手塚にとりあえず謝り、3人の目線の先で撤退の準備をしている現場を眺める。
脇に置いてある天井の凹んだ重機は、一晩の間にひっくり返されて壊れた物らしい。
人間がやると手間も度胸も、自身の身へのリスクもある…ならば、これが出来るとなると、知っている者にとって答えは一つしか出ない。

「ポケモン…それも重機をひっくりかえせる程の大きな」
「ポケモンがこの山に?」
「推測にすぎないけど、もしそうだったら危険…人間にも、ポケモンにも」
「ピ…ピチュ!!」

何かを感じ取ったピチューが両耳を立てて叫ぶと、突如直下型かと思える地震が迫って来る。
それは撤退作業中の人々にも同じで、だんだんと中心部分へとその衝動が近付きそれを運んで来た長い身体が地面を突き破って姿を現した。

「岩が突き出て来たぞ!!」
「違う…化け物だあぁぁ!」
「イワーク!あの子の仕業だったのね。リョーマ、国光、他の人たちと非難して!」
「はい!」
「ヒナヅルさん1人で…?」
「専門に任せておいて。ピチュー、キャモメ、それにダイアナ、みんなをお願い」

ヒナヅルの言葉に大きく頷いたポケモンたちに彼らを任せて、ヒナヅルは地中から顔を出したポケモンの捕獲を開始する。
この山に住み着いていたのは岩の蛇とも言えるポケモン、イワーク。
怒りの青筋を浮かべて重機をひっくり返した所を見ると、このゴルフ場計画に怒っているのは一目で解る。
人間の自然破壊に対してポケモンが妨害をする…ヒナヅルの世界では良くあることであり、そして彼女がこの世界に迷い込んでしまったのも、間接的に関係がある…。
ポケモンが妨害した、と言う訳ではないがどの世界でも自然破壊と言うのは深刻な問題なのだ。
そして怒りが頂点に達しているイワークを穏便に捕獲するには、この山にいる人間たちに被害を与えないためにはあまり派手な事は出来ないだろう。

「行くわよ、ブラッキー!エーフィ!」

黒と薄紫のよく似た2匹がボールから飛び出ると、素早い動きでイワークに向かって走って行く。
イワークの注目を集めてぐるぐる動き回る2匹を追って、イワークは山の奥へと地中を潜って移動して行く。
小さな地震の様な地響きはイワークが地中を移動する音、それが2匹を追って行くとヒナヅルもそれを追って行こうとした。

「イワーク…。この山で何があったの?」

彼の怒りが頂点に達する程の自然破壊だったのか…?ポケモンの存在で騒ぎになる前に捕獲しようと、ヒナヅルも山の奥へと走って行った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ