花炎異聞録

□第二録 現状確認
4ページ/4ページ




「まぁ成功するとは思ってなかったがな?」
 彼女は言った。ひれ伏す部下に対して。
「まっさかボンゴレが偶然通りがかるとは思わなかったぜ」
 はぁ、とため息をつく。背中に流された長い黒髪が揺れた。
 粗暴な口調だった。繊細な見た目からは想像できないほどだ。
 容姿だけを見れば、つんとつり上った目が印象的な、人形のように愛らしい顔立ちの少女だというのに。
「できればボンゴレに真庭忍軍のことは知られたくなかったんだが。ま、知った以上、しょうがねぇか」
 どうしよーもないしー、と彼女は表情を改めた。
「ま、仲間をすぐ減らしたくないし? 少しの間は日陰者でいようぜ。あ、元から日陰者か」
「……あいかわらず明るいな」
 彼女の後ろ、少し離れた場所に立っていた男が口を開いた。
 長い黒髪を真っ直ぐ伸ばした、背の高い男だった。
 彼を振り返り、彼女は薄赤い唇の端を釣り上げる。
「あいかわらず、というのは正しくねぇ。記憶と忍法は俺だけど、あくまで俺は俺じゃない……ま、記憶ありでこの世界に転生できたのは偶然、必然、いや運命だろうけど」
 そう言って彼女は、くくっと笑った。
 少女らしからぬ、随分と卑下た笑いだった。
「それはともかく、もう少し待っててくれよ。仲間全員、所有者全員は体力的にまだちょい無理だし」
「構わんよ。それまで気長に待つさ」
 男は引き締まった唇を少しだけゆるめた。
「おぬしの忍法は真庭忍軍の中でも規格外だからな。その反動ゆえの体力消耗を責める気は無い」
「ありがとさん」
 未だひれ伏している部下達を無視し、彼女と男の会話は続けられる。
 二人共、奇妙な格好だった。
 現代にそぐわない、時代錯誤なしのび装束。しかし、もっともおかしいのはその形である。
 袖を切り落としたしのび装束の上全身に鎖を巻いているのだ。
 おおよそ、忍ぶ者の格好ではない。むしろとんでもなく目立つ。忍ぶ気を感じられない。おかしな男女だった。
 しかし彼らがいるその場に、それを指摘するものはいない。
 当然といえば当然で、彼らにとって、部下から見ても、その格好は普通の格好だったのである。普段の格好、と言ってもよかった。
「虚刀『鑢』、ボンゴレ十代目。せいぜい平和に過ごしな。気付いた時には、もう俺の思い、願い、いや野望は始まってる」
 そう言って、彼女は低く笑った。
 女とは思えない、悪巧みをする真っ黒な笑い方だった。



続く…
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ