花炎異聞録

□第十四録 千刀
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 説明し終えた後、迷彩はなるほど、とあっさり納得した。
 普通、死んだ自分が忍法で生き返り、おまけに別世界に来てしまったなどとそう簡単に信じるわけ無いのだが。七花といい右衛門左衛門といい、あっちの世界の住民はやけに柔軟性があった。
 まぁだからこそ、彼らは強者になりえたのかもしれないとリボーンは思う。
「ふぅん。ならあたしがここにいる理由も、解るってもんだね。その……右衛門左衛門? さんの推測も、千刀がある時点でかなり確信めいたものになってるし」
「まだ色々謎の多い部分があるがな……しかしそれでも、かなり解ってきた部分も多い」
 リボーンはそう言って、そこら中に無造作に置かれた刀――千刀『鎩』を見渡す。
 千本で一本の刀という荒唐無稽の刀。どういう方法を取ったかは知らないが、四季崎記紀は何をどう思って、そんな刀を思い付いたのだろう。
「それにしても完成形変体刀……いや、変体刀千本全てが、歴史の改ざんなんていう大それた目論見のための道具とはね。しかも虚刀流そのものも変体刀最後の一本と言うじゃないか」
 迷彩は面白そうに笑った。
 歴史の改ざん。七花が語った四季崎記紀の目的は、まさにそれだった。
 七花が言うには、四季崎は元々占い師で、未来を変えるために変体刀を造ったのだという。
 目的があると思えなかった刀にそんな理由があったということに、三日前のリボーンやツナ、その場にいたディーノやロマーリオまで絶句したほどだ。
 おまけに七花自身はそれら全てを習作にした完了形変体刀なるものだということにはもう絶句とかそういうレベルじゃなかった。もっとも、完了形変体刀に関しては、彼自身がではなく虚刀流そのものがそうらしいが。
 そしてそれら全ての刀を、四季崎は占い師の能力(ちから)である予知能力で得た未来の知識で造ったと言うのだからもはや黙る他無かった。
 リボーンは姿見ぬ四季崎に、世界を征服しようとしたかつての敵であり、他のパラレルワールドの知識を得るという、それこそ馬鹿馬鹿しいほどに恐ろしい能力(ちから)を持つかの白蘭を重ねた。だが、四季崎がそんな野心を持たなかったからこそ変体刀ができたと思うと、複雑な気分だった。
 変体刀があったからこそ自分達は七花と出会えたし、逆に言えば現在の状況に陥った原因である。結局のところ、どっちつかずだった。
「さてと……まずは千刀の処理だね」
 迷彩の言葉に、リボーンは我に返った。どうやら思ったより深く考え込んでいたらしい。
「それに関しては、ボンゴレの技術者に任せろ。さっき話した、匣の要領でなら何とかなるはずだ」
「問題は、彼女をどうするかよね」
 ビアンキは迷彩を見上げて言った。迷彩の方が背が高いため、どうしてもそうなってしまう。
「まさか七花と同じように、ツナの家に居候させるわけにもいかないでしょう」
「だったら他の奴に頼んだらどうだ? ほら、この間の跳ね馬とか」
 七花の提案に、リボーンはそうだな、と頷く。
「ディーノも当面日本にいるしな。後で連絡入れるか」
「あ、そのことなんだけど」
 迷彩が突然遠慮がちに手を上げた。
「もう一人いてもいいかい?」
「もう一人?」
「実はさっき、あたしと同じ所有者に会ったんだよ」
 さらりと、驚きの事実を教えてくれた。
「人の気配を感じたから、離れた場所で待ってるよう言ってこっちに来たんだ。まぁその気配は君達のだったんだが」
「誰なんだ?」
 七花が尋ねると、迷彩は黒巫女だよ、と答えた。そして、リボーンとビアンキのために説明を加える。
「黒巫女っていうのは三途神社に仕える女達でね。名前は凍空こなゆき」
「こなゆきが?」
 七花は目を丸くした。
「黒巫女姿ってことは……そっか、無事に出雲に着いてたんだな」
 七花は安心したように呟いた。
「そいつが持っているのは、どういう刀なんだ?」
 リボーンが訊くと、七花は口を開こうとした――

 ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァンッ

 誰もが身をすくませた。
 いきなり響いた爆発音。音の方を見ると、火柱が立っていた。
「な、何だ……!?」
 後ずさる一同の中、迷彩は呻いた。
「まずい! あっちはお嬢ちゃんを置いてきた方向だ!」




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