クロスライダー W&OOO

□OOO編第二話
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 後藤は次に狙われると考えられるファミレスでヤミーを待ち構えていた。
 待ち構えていた、と言うが、ようは客として入店し、席に座って見張っていたのである。
 青木はこの店で客に対して暴力沙汰を起こし、クビになったらしい。ほかの襲われた店舗でも似たり寄ったりの理由で辞めており、周囲に逆恨みの言葉を吐きながら当たり散らしていたという。
 そんな男がヤミ―という欲望でできた化け物を生み出し、これを利用している。ここでも、店が荒らされるだけで済むはずが無かった。
「とはいえ、さすがにこれ以上ここにいるわけにはいかないか」
 すでに一時間席を占領してしまっている。時間も人が最も多い辺りだ。店側にも迷惑がかかるし、一旦退店するしかないだろう。
 ひとまず映司と信吾に連絡を入れてから退店しようと、後藤がスマフォを取り出した時だった。
「! 来たか」
 机の上に置いていたゴリラカンドロイドが、発光しながら両腕を回し始めた。
 ゴリラカンドロイドが反応しているということは、近くにヤミ―が現れたことを意味している。
 後藤は改めて店内を見回した。
 やはり青木らしき人物は見当たらない。となると、店外にいるか、ヤミ―だけが行動しているということだ。後藤は手早く荷物をまとめると、会計を済ませて店を出た。
 一体どこに、と考えて、後藤はある可能性に思い至って顔を上げた。
「空か!」
 後藤の目には、雲の多い空に黒い大きな点が見えた。点は次第に大きくなり、やがて鳥に似た、しかし明らかな異形の化け物が地上に近付いてきた。
 周囲もその存在を気付き始めた。空を見上げて唖然とする者、好奇心を込めて見つめる者、いち早くそれが何なのか気付いて逃げ出す者──反応は様々だが、それが地面に音を立てて降り立つと、例外無く悲鳴を上げた。
 真っ黒な羽根に覆われたカラスに似た頭部。くちばしの下には人間の顔が張り付いている。黒い翼は大きく、羽ばたくだけで人間を吹き飛ばしそうである。灰色の足先にはナイフより鋭い鉤爪があった。
 蜘蛛の子を散らすように逃げていく人間達には頓着せず、化物──カラスヤミ―は目の前のファミレスを見上げる。だがそこで、逃げずに留まっている人間に気が付いた。
「おまえに用は無い。そこをどけ」
「あいにくだが、俺はおまえに用がある」
 そう返した後藤は、バースドライバーを装着した。周囲の人々は逃げることに忙しく、後藤のことなど気にも留めていない。
 後藤はヤミ―を見据えたまま、ドライバーにセルメダルを投入した。
「変身」
 後藤がハンドルを回すと、ドライバーからバースのパーツが飛び出した。懐かしい機械音と共に、後藤の身体を包み込む。五秒もしない内に、銀と緑の強化スーツを身にまとった。
 仮面ライダーバースは構えを取る。一方ヤミ―は目の前の人間がバースに変身したことに驚いたようで、巨体を揺らした。
 バースはドライバーにもう一枚メダルを投入した。
“ドリルアーム”
 ドライバーから飛び出したパーツが右腕に装着され、ドリルの形状を取る。バースはそのままヤミ―に突進した。
 ヤミ―は翼から羽根を手裏剣のように飛ばして迎え討った。だがバースはドリルアームでそれを打ち払い、そのままヤミ―に叩き付ける。慌てて反応したヤミ―は、両翼で受け止めた。
 だがドリルアームは、回転してその翼をえぐる。黒い羽根とセルメダルが辺りに飛び散り、ヤミ―は苦悶の声を上げて飛び退いた。
 バースは追撃しない。ドリルアームを構え直して、ヤミ―を見据える。
 ──確かに、前より負荷があるな。
 バースは心中で呟いた。
 能力改善されたバースシステム。少し使っただけで基礎能力が上がっているのを確かに感じた。どれだけの差があるか解らないのである程度抑えて動いているのだが、それでも動きが違うと実感できる。
 バースは肉体に装着する形であるため、動作反応にはどうしても時差が生まれる。それが明らかに前より少なくなっているのだ。
 それだけではない。攻撃の重みが目に見えて増している。反応スピードも段違いだ。
 その他の能力はまだ解らないが、その時点で性能向上は充分実感できた。
 だが、その分肉体への負荷が明確に感じられる。身体の"きしみ"をはっきりと認識できるのだ。
 しかし、バース──もとい後藤にとってそれは気にするほどでもなかった。
 長期戦闘は負担が大き過ぎるかもしれない。しかし通常の戦闘であれば問題になるほどではない。グリードはまだ解らないが、ヤミ―相手ならば気に留めるほどではなかった。
「おのれ……貴様が仮面ライダーか!」
「何……?」
 バースは仮面の下で眉をひそめた。ヤミ―の口から仮面ライダーという言葉が出てきたのに驚いたのだ。
 自分達がそう呼ばれているのは知っているし、そう名乗ったこともある。そもそもバースシステムの名称のひとつが“仮面ライダーバース”なのだ。
 だがヤミ―という存在からその名称が出たことが意外だった。
 バースは僅かに迷った後、そのまま突貫した。ドリルアームを突き出し、ヤミ―の腹を殴りつける。ドリルによってセルメダルを巻き上げられたヤミ―は不快な悲鳴を上げた。
 バースがぶんとドリルを振ると、それに合わせてヤミ―も吹き飛ぶ。バースは巻き上げたセルメダルを足下に振り落し、そのまま追撃しようとした。
 だが一足はやく、ヤミ―が飛び上がる。羽根とセルメダルをまき散らしながら空へ逃げようとしているのだ。
「逃がすか!」
 バースはクレーンアームに切り替えてヤミ―を捕まえようとした。この距離ならまだ、捉えることは可能である。
 だが、バースはヤミーを捕まえることはできなかった。突如飛来した光弾が、バースを襲ったためである。
「う、ぐぅっ」
 バースは光弾を受け、体勢を崩した。倒れることは無かったものの、耐えきれず膝を着いてしまう。
 バースは即座に顔を上げた。だがヤミ―の姿はもうどこにも無かった。
「逃がしたか……しかし、今のは一体」
 周囲を見渡し、脅威が無いことを確認すると、バースの変身を解く。
 皆逃げ去ったらしく、人影は無い。つまり光弾を放った存在も見当たらないということである。
 ヤミ―のものではないのは確かだ。完全にこちらに背を向けていたし、あれの飛び道具は羽根だった。ほかに攻撃手段があったとしても、背を向けて使えるとは考えにくい。そもそも方向からして違った。
「ヤミ―を作り出した存在の攻撃か……?」
 後藤が顔をしかめていると、ポケットの中のスマフォが震動した。画面を見れば、泉信吾の名前が表示されている。
 後藤は眉をひそめて電話を取った。
「後藤です。泉刑事、青木は確保できましたか?」
『いや……予定外のことがあって』
 信吾の声は困惑しているように聞こえた。ただ逃がしただけではないと、その声から解る。
『とにかく合流しよう』
「……解りました。そっちに向かいますので、待っていてください」
 通話を切った後藤は、光弾が飛んできた方向を睨み付けた。
 そこには誰もいない。影も気配も無い。
 だが、確かに邪魔者はいた。
 姿の見えない敵に、後藤は自然と厳しい表情になった。
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