クロスライダー W&OOO

□OOO編第三話
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「アンクの後継機……!?」
 その言葉に驚いたのは、バースだけではない。オーズもまた、その表現には驚いていた。
 その言い方はまるで、目的を持ってアンクを雛型に造られたかのようだ。
「あは。素敵な反応ありがとぉ。やっぱそうでなくっちゃね」
 アスルはくすくすと笑った。無邪気なその笑い方は、やはりアンクとは似ても似つかない。
「どういうことだ? アンクと同じ鳥型のグリードってだけじゃないのか?」
「残念だけど教えない。ぼくがアンクじゃないって見抜いたのはつまんないぐらい素敵だったけど、それで教えられるのはここまでだよ。知りたければ、もっと面白いものを見せてくれなきゃ」
 そう言って、アスルはモンク・ドーパントを見下ろした。
「ねぇ、悔しい? 仮面ライダーにしてやられて、ヤミ―まで倒されちゃって、どん底って感じ?」
「どん……底……?」
 ずっとうずくまっていたドーパントがゆらりと顔を上げた。
「どん底……こんな……こんなところで、終わるわけには……いかねぇんだ……」
 弱々しくも立ち上がるモンク。少し突いただけで倒れてしまいそうな有様なのに、黒い炎が立ち上がっていそうな迫力があった。
「俺は、見返さなきゃならねぇ……俺を見下した奴らを……馬鹿にした奴らを……こんなところで、終わるわけには……!」
「いいね、その欲望」
 呪詛染みた言葉を吐き続けるモンクに、アスルは楽しそうにしながら右手をかかげた。
「承認欲求大いに結構。その欲望に、ぼくが更なる力を与えてあげる」
 その指が、ぱちんと鳴らされると同時に。
「何だ!?」
「セルメダルが……!」
 突如耳に届くがちゃがちゃという金属音。それはうごめき出した大量のセルメダルの音だった。
 メダルは意思を持つかのように浮かび上がり、モンクに殺到する。
「あが、が、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
 響き渡るモンクの絶叫。身をすくませたオーズとバースだが、すぐに我に返って走り出した。
「何をっ!?」
「おっと、駄目駄目」
 だがその足は、アスルによって止められる。背中から現れた翼から放たれたかまいたちが、ふたりの足下に放たれたのだ。
 反射的に飛び退いたふたりは、そのかまいたちが地面に大きな裂け目を作ったのを見る。もしそのままその場にいたら自分達もそうなっていたのでは、と思わせるような深く大きな裂け目だった。
「邪魔しないでよ。これは大事(だあいじ)な進化の前段階なんだから」
「進化だって?」
「そ。全ては進化のため。そのためにメモリは造られたし、そのためにセルメダルが必要なの。ま、ちょっともったいないけどねぇ」
 そう言っている間に、セルメダルはドーパントの身体を完全に包んでしまった。メダルに覆われたその形は次第に変わっていき、元のそれとは別の存在に変わっていく。
「ハッピーバースデーイ♪」
 歌うような声と共に、”それ”は明確な姿を現した。
 黒い僧衣は山伏のようなそれに。手にした錫杖は更に大きく禍々しい代物に。異形ながら
人間に近かった頭部は角のはえた黒い鳥のものに。そして背中には、いびつな形の黒い翼──
「はい完了。さてさて、改めましてのご挨拶ぅ。モンク・ドーパント改め──ブラガート・ドーパント君でぇす。はい拍手ぅ」
 ぱちぱちぱち。再び拍手が虚しく響く。怪人態であるためか、かちかちかちと硬質な音が混じっていた。
「ブラガート……Braggart……? 自慢するとかそういう意味だったよな」
「もうひとつありますよ。天狗のことも英語でそう言います」
 首を傾げるバースに、オーズはそう付け加えた。なぜそうなのかは、考えるまでもないだろう。
「んふふ、想像以上に彼にふさわしいドーパントに進化したと思わない? でも、”まだ足りない”」
 アスルは笑いながらモンク・ドーパント──否、ブラガート・ドーパントを見た。
 ブラガートはゆらりと立ち上がり、高笑いを上げた。
「は、はは。はははははははははははは。何だこの力は。何だこの力は!」
 ぶんと錫杖が振り下ろされた。錫杖を叩き付けられたコンクリートの地面は、その一撃で粉々に砕け散ってしまう。その上周囲一帯が蜘蛛の巣状にヒビが広がり、僅かながら地震のような震動を起こした。
「こ、これなら誰にも見下されない……! 俺を認めなかった奴らに、俺の力を見せつけることができる!!」
「よかったねえ」
 アスルはのんびりと賞賛の言葉を贈った。その後、オーズとバースを指差す。
「今ならきっと、君を馬鹿にした仮面ライダーだって勝てるよ。そうだなあ……手始めにあの緑と銀の奴にしようか。君のヤミーを壊しちゃったんだし、まずあいつに解らせてやらないと」
 アスルの言葉を受けて、禍々しいふたつの赤色がバースを捉えた。
「はは、はははははははは! そうだなあ! まずはてめえだ緑野郎!」
「っ……!」
 バースは反射的にドリルアームを展開させた。それを盾にして構えたところへ、ブラガートは錫杖を振るう。
 ぐわんと衝撃が腕全体に伝わったと思う間も無く、バースの身体が浮いた。
 ブラガートが翼を広げ、バースを掬い上げる形で飛び上がったからだ。
「後藤さん!?」
オーズは空中に飛び上がったふたりを見上げた。
 およそ五メートルほど上昇したところで、バースがカッターウィングを展開する。そのままドーパントから何とか距離を取ったところまで確認できた。
 それ以降は解らない。
「ねえ、よそ見する暇があると思う?」
 気付けば目前まで迫っていたアスルが長い脚でオーズの腹を蹴り上げた。
「がはっ!?」
「まだまだ行くよぉ」
 身体を強張らせたオーズにアスルは次々と蹴撃を喰らわせる。五回連続で受けて、オーズは後方に吹き飛ばされた。
 ごろごろと地面を転がり、そのまま地に伏してしまう。アスルは追いかけることはせず脚を下ろした。
「駄目だよ、目をそらしたら。こういうの、人間は油断大敵って言うんでしょ」
「まあっ……ねっ……」
 オーズはすぐに起き上がった。だが、先の攻撃によるダメージは全く無いわけではなく、身体が僅かに揺れている。だがそれも、意識して呼吸することで収めた。
 オーズはメダルをトラとチーターに変えて走り出した。目で捉えられないスピードで迫り、爪を振り下ろす。
 だがアスルは、目前に迫った爪を優雅な動きで一回転し、紙一重で回避してみせた。
「なっ……!」
「速いだけじゃ、ぼくを捕まえられないよ」
 そのまま背後に回ったアスルは、オーズに囁きかける。
「もっと本気出してよ。でないと……殺しちゃうよ?」
 言葉と共に、背中に激痛が走った。アスルが鉤爪を振るったのだ。
 オーズはまたも吹き飛ばされた。今度は体勢が不安定だったために受け身も取れず倒れ込む。
 勿論すぐ起き上がったものの、背中には鋭い痛みが強く残っていた。
「そうそう、簡単に倒れないでね。つまらないからさ」
 アスルは笑いながらあるものを取り出した。
 それは、一見するとUSBに見えた。白い半透明のそれには、“V”の一文字がある。
「それは……!」
「そ。ガイアメモリ♪」
 アスルは右手をかかげた。怪人化してなおそこに存在する指環が、今は禍々しく映る。
 そこでようやくオーズは気付いた。あの指環はドライバーだ。小さいが、仮面ライダーWが使っているガイアメモリを使用するためのものと同じなのだと。
“ヴァルキリー”
「見せてあげる。ぼくらが目指す進化をね」
 アスルは指環にガイアメモリを突き挿した。
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