クロスライダー W&OOO

□OOO編第四話
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 青木が逮捕されてから三日後、映司と後藤は鴻上ファウンデーションを訪れていた。
 事件が解決し、後藤の体調も回復したので、鴻上に報告をしに来たのである。
 バースの新機能によって動けなくなってしまった後藤だったが、二日入院してその後大事を取って仕事を一日休み、すっかり元通りになっていた。
 ちなみに病院での診断は過労らしい。
「まだ身体が若干重いけどな、大したことは無い」
「ほかは大丈夫なんですか?」
「ああ。内臓や骨にも異常は無かった。……今後どうなるかは、解らないけどな」
 エレベータ内の表示板を眺めながら、後藤は肩をすくめた。
「とりあえず、会長に会ってから技術者にも話をする予定になってる。火野も来るんだろう」
「できれば……行きたくないですけど、そうも、いかないので……」
「……本当に苦手なんだな」
 絞り出すような映司の言葉に、後藤は少し驚いたようだった。
 話している間に最上階に着いたので、ふたりは無言になってそのまま進んでいった。
 会長室のインターフォンを押すと、はい、と女性の声が答えた。
「火野です。連絡した通り、後藤さんと一緒に来ました」
『入ってください』
 鍵が開く音を確認し、ふたりは会長室に入った。
「おはようございます、火野さん、後藤さん」
 ふたりを出迎えたのは、里中エリカだった。
 華やかなスーツをまとい、淡々とした表情と口調は、何年たとうと変わることが無い。
「お待ちしてました、どうぞ」
 里中はくるりと背を向けた。
「会長。火野さんと後藤さんが来ました」
「ああ」
 顔を上げた鴻上は、いつも通りケーキを作っていた。
 用意されたクリーム、チョコプレート、砂糖菓子のバラや鳥も白い。使われているフルーツは季節外れにも白桃である。何を表しているかを察して、映司は何とも言えない顔になった。
「おはよう、火野君。後藤君は、久し振りだね」
「おはようございます、鴻上さん」
「おはようございます、お久しぶりです」
 映司と後藤の挨拶に鷹揚に頷いた鴻上は、ケーキの生地にクリームを塗り始めた。
「話はすでに聞いている。新たなグリード、ガイアメモリ──ガイアメモリの情報は、風都の鳴海探偵事務所から情報があったと聞いているが」
「はい」
 映司は頷いた。
「TOガイアメモリ──オーメダルの力を取り込んだ新型メモリだそうです」
「ガイアメモリのことは私も詳しく知らなかったが──今回の件を考えるに、背後にはやはり、財団X、状況を考えるに、その関係者がいる可能性が高い。どちらにせよ、現在ガイアメモリの研究を行っているのは財団Xだけであり、そこにオーメダルも関わってくるとなると、財団の研究資料を多く知っているか、所持しているかのどちらかだろう」
「……それに加えて、新たなグリードの存在です」
 後藤は苦い声で言った。
「グリード・アスル──自らをアンクの後継機と名乗り、ヴァルキリーメモリというガイアメモリと新型ガイアドライバーを使用する怪人。更にTOガイアメモリを与えたと考えられる風都の謎の怪人。おそらく両者共、TOガイアメモリを使用していると思われます」
「……素晴らしい!」
 鴻上はかっ、と目を見開き、満面の笑みを浮かべて叫んだ。ケーキはクリームを塗り終わっており、すでにデコレーションが始まっている。
「グリードとドーパントは、共通するものがある。すなわち欲望! 欲望から力を欲し、欲望によって進化する。それぞれがかけ合わさってきた新しいガイアメモリ。それを操る新たなグリード。新たな欲望の誕生だ! Happy birthday!!」
 手早くデコレーションを終えた鴻上は、ケーキを映司達に向けた。
 ケーキはクリームや砂糖菓子の白バラ、鳥、白桃で優美に飾り立てられている。中心のプレートには“Happy birthday,NewGreeed & TOGaiamemory”とあった。
「警察としては全くめでたくないんですが」
 後藤は若干げんなりした顔で呟いた。里中は我関せずといった顔で、スマフォで華やかなホワイトケーキの写真を撮っている。
「鴻上さん、もういっそ洋菓子部門でも作りません?」
「む……食品関係はそういえば扱っていないな。技術研究方面ばかりだし……我ながら盲点だった。ふむ、新たな部門を誕生させるのもありだな! 勿論、私自らプロデュースするとも」
「…………」
 ──うっかり新部門できちゃいました。
 ──やめろよ、会長本気するんだから。というか本気でやるんだから。
 冷や汗をかいて顔を見合わせ、目で会話する映司と後藤だった。
 成功しそうな辺り、もはやさすがとしか言いようがない。
「会長、バースのことも話すのでは?」
 敏腕秘書の軌道修正が入った。さっきまで写真を撮りまくっていたのに、さすがの切り替えである。
「おお、そうだった。どうかね、後藤君。身体の調子は」
「もうほとんど問題ありません。多少気怠さが残る程度です」
「ふむ」
 鴻上はケーキを脇にどかし、椅子に座った。
「バースの新機能──戦闘の際に発生する生存欲求をエネルギーに変換し、バースの動力とするシステムだ。セルメダルをほとんど必要とせず、従来以上の性能に進化できる反面、変身者の生命力を消費するも同然のため、強い負担がかかる。おまけに変身者に合わせて調整しなければまず起動すらできない。量産が難しい代物だが、戦力としては大きな進歩だ。もっとも、開発者は別の用途でこのシステムを使いたかったようだが」

「ああ、勿論だとも」

突如、会長室の扉が音を立てて開いた。
鍵がかかっていたはずなのに、何の意味もなさず、あっさりと。
「もともと義肢、あるいは人工内臓技術に使うはずだった私の虎の子だ。調整と試験運用のためにバースシステムに組み込みはしたが、試運転も無くいきなり実戦投入されて腹立たしいと思うのは当然だろう」
 現れたのは、赤いスーツに白衣を羽織った、金髪の美女だった。整っているがきつい面差し、背が高くすらりとした身体付きはモデルのようで、白衣がファッションの一部に見えてしまう。
 女性は紅い瞳を吊り上げ、ハイヒールをかつかつと鳴らしながら映司と後藤を押しのけた。
「文句を言いに来たぞ、鴻上」
「おはよう、スカーレット君。相変わらずの腕前だな」
 鴻上がにっこり笑うと、女性はぎり、と更に目付きを鋭くした。
「相変わらずむかつく男だ。貴様のような男が現在の上司というだけでも腹立たしいのに、祖先の縁まであるなど最悪だ。いっそ石にでも変換してやろうか」
「ちょ、ちょっとリザさん!」
 冷酷な声で話す女性に、映司は慌てて待ったをかけた。
「鴻上さんは悪気があったわけじゃないですし、おかげで後藤さんは勝てたんですから、落ち着いてください!」
「後者はともかく前者は大問題だ。なおさらたちが悪い。おまえ、解って言っているだろう」
 女性──リザは、映司の胸ぐらを掴んだ。
「おまえには関係無い。でしゃばるな」
「っ……!」
 映司は息を詰まらせ、それでも何とか言い返そうとした時だった。
「お茶の用意ができました」
里中が淡々とした声と共に前に出た。いつの間にか、茶の用意をしていたらしい。
「お話でしたら、会長のケーキを食べながらにしましょう。リザさん、甘い物好きでしたよね」
「……里中」
 リザはため息をついて、映司を離した。
「いただこう。この男のいいところは、経営手腕とケーキぐらいだしな。……その前に」
 リザは後藤に向き直った。背が高いことに加え、ハイヒールを履いているせいで、彼と身長はほとんど変わらないように見える。
「初めまして、Mr.後藤。リザ・スカーレットだ。よろしく頼む」
 口調は淡々としたままだが、リザはここに来て初めて笑みを見せた。
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