クロスライダー W&OOO

□W編第五話
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 猪頭の横っ面に、Wの回し蹴りが炸裂した。
 ドーパントはぐらりとよろめくも何とかこらえ、Wの脚を掴む。そのまま木の枝のように投げ飛ばした。
「うおっとぉ!」
 Wは空中で体勢を整え、軽やかに着地する。そのWに向かって、ドーパントは突進した。Wは地面を転がって回避し、メモリを替える。

“ヒート”
“メタル”

 メタルシャフトでがら空きの背中を打つと、自身の突進力もあってもんどり打つドーパント。だが、そのまま倒れることは無かった。
 派手に地面を破壊しながらも立ち上がると、またもや突進した。そのスピードは先ほどよりも速く、Wは反応しきれない。
 結果、ドーパントはメタルシャフトに噛み付く形になった。噛み付いてもドーパントの勢いは止まらず、Wはメタルシャフトを手放して吹き飛ばされる。
 距離を取るために逆らわずに離れた場所で膝を着くW。だが彼らの目に、とんでもない光景が映った。
 ばきゃ、と金属が砕ける音。その音は怪人の口から──より正確に言えば、口にしたメタルシャフトから響いた。
 怪人はなんと、メタルシャフトを噛み砕いたのである。
「嘘だろ!?」
『そんな、馬鹿な……』
 怪人は真っ二つになったメタルシャフトをそのままばりばりと食べていく。かけらさえ残さず、メタルシャフトは怪人の胃袋に収まった。
「おいおいおい……そんなのありかよ!」
 Wは立ち上がって声を荒げた。
「武器を喰うドーパントなんているのか、フィリップ!」
『金属を食べるドーパント──無いわけではないが、金属を食べる猪なんて聞いたことが無い! 多分こいつもTOガイアメモリの使用者だ!』
 叫ぶより早く、怪人はWにまた突進した。先ほどよりまた更に速い突進に対応しきれず、正面から受けることになってしまった。
 突き出た二本の牙は何とか回避できたものの、突進そのものはWの全身に強烈な衝撃を叩き付ける。息が詰まりながらもWは炎をまとった拳を猪頭の目に叩き付けた。
 ぶるぉん! と咆哮と共にのたうつ怪人。Wもその勢いで壁に叩き付けられた。
 座り込みそうになるのをこらえるWへの追撃は、無かった。怪人はその場でしばし悶えた後、逃走したのである。
「待て!」
 Wは声を上げるも、怪人は振り返りもしなかった。あっという間に見えなくなった異形に、舌打ちが漏れる。
「くそ、逃がしちまったっ」
『…………』
 変身を解いた翔太郎はスーツのほこりを払った。そして無言のままの相棒に声をかける。
「どうした、フィリップ。何かあったか」
『いや……猪なのは厄介だと思って』
「厄介? 何がだ」
『神話において、猪は英雄の命を奪う魔獣としてよく登場する。その上、その特徴が割と似たり寄ったりなんだ。今の戦いだけだと、絞り込みはできても特定は難しい』
「そっか……」
 通常でもそうだが、候補は多ければ多いほど検索が困難になる。ましてや今回のように地球の本棚がロックされているとなると、まずロックを外さなければならない。今のところ猪ということしか解らないので、それにも時間がかかりそうだ。
「フィリップ、本棚で事前に猪の神話だけをピックアップして、それを紙の本で調べたらどうだ? それぐらいなら、ロックされててもできるんだろ」
『そうだね、そうする。じゃあ、何か解ったら連絡する』
「おう」
 翔太郎は頷き、ドライバーを外した。
「さてと……マッキーと水野さんは、無事連れてってくれたかねぇ」
 まずは照井に連絡、と翔太郎がスタッグフォンを呼ぶ。
 ──と。

「また会ったな、仮面ライダー」

 その声が耳に届いた瞬間、身体が総毛立った。
 戻しかけたジョーカーメモリを手に周囲を見渡し、身構える。
 人影は無い。声の主もどこにもいない。だが翔太郎は壁に背中を預け、油断無く耳を澄ました。
「無駄だ。声だけで位置を知らせるほど素人じゃない」
「……だろうな。何の用だ」
 声の主が誰かなど、すでに解っている。あの正体不明の怪人だ。
 ドーパントなのかグリードなのか、あるいはどちらもなのか──それすら解らない黒い怪人は、何のつもりか翔太郎に声をかけている。
 それが何の意味も無い行動なわけがない。
「先ほどのドーパントだが──あれに、貴様は手を出すな」
「はあ?」
 翔太郎は眉をひそめた。
「そんなことを聞くわけねえだろうが。馬鹿じゃねえのか」
「あれは俺から見ても敵だ」
「……何?」
「あのドーパントは、こちらの命令を無視して行動している。あのドーパントが動けば動くほど、こちらにとっても都合が悪い。勿論、貴様らにとっても不都合だろう」
「どういうことだ? 奴はてめえらの指揮下じゃねえってことか」
 翔太郎は周囲を伺いながら尋ねた。答えには期待していなかったが、意外にも返事があった。
「暴走したのだ。奴は自分の正義感を暴走させている」
「正義感を暴走ねえ……」
「奴を止めなければ、奴は風都を平らげるだろう」
「……は!?」
 翔太郎はがばりと顔を上げた。
「平らげるだと? そりゃどういう意味だっ」
「文字通りの意味だ。貴様も見ただろう。自身の武器が喰われる様を」
「あれを風都自体にするってのか?」
「そうだ。奴にかかれば、風都には何も残らない」
「……それを聞いて、俺が手を引くとでも思ってんのか」
 恐れて身を引くと思われているのなら心外である。
 風都に脅威が迫っているなら、翔太郎のやるべきことはひとつだけだ。
「俺はあのドーパントも、てめえも止める。街を泣かせるてめえらを許すわけにはいかない。てめえらの罪を、必ず数えさせてやる」
「……そうか」
 声は静かに呟き。
「なら、死ね」
 無慈悲に死神の鎌を振り下ろした。
「……!?」
 気付いた時にはもう遅い。
 耳をつんざく爆音。目を焼く閃光。全身をなめる火炎。
 翔太郎の身体は、激しい爆発の中に消えた。
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