花炎異聞録
□第一録 出会い
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鑢七花という男は、とにかく目立つ男だった。
まず背が高い。それこそ大男と形容されてもおかしくないほどだ。
長い腕や脚は細いが、けして華奢ではない。
必要な筋肉が――戦うために必要な筋肉が付いた身体だった。
それも当然で。
彼は戦うために身体を鍛え。
戦うために戦うのだから。
そんな彼は今。
「……えっと。あんたら誰だ?」
囲まれていた。
そもそもなぜそのような状況におちいったかと言うと、それは七花にも解らなかった。
混乱しているせいか、それとも頭でも打ったのか、前後の記憶がもやがかっているのだ。
ぼさぼさの総髪をかきながら、それでも現状は把握しようと七花は辺りを見渡した。
一言で言えば――ここは灰色だった。
地面は鼠色の、土より固いもので覆われている。何でできているかは知らないが、少なくとも未知の素材であることは確かだ。
自分の背中に当たる塀は、白に近い色をしている。
一目で土壁でないことは解った。かといって、城の壁とも違う気がする。
そして塀に囲まれている家は、七花の知らない形をしていた。
色んなところを旅して色んなものを見てきたが、こんな建物は見たことがない。
……いや、そんなことより。
「なぁ……ここ、どこなんだ?」
とりあえず、目の前の男達に尋ねてみた。
自分を囲んでいるのは、十数人の黒衣の男である。
皆初めて見る顔で、ついでに言うと、服装も初めて見るものだった。
そういえば、左右田右衛門左衛門が着ていた洋装に近い形だ。
だが、それとも少し違う――気がする。
普通はもう少し考えるはずなのだが、七花はそこで考えるのをやめてしまった。
もともと考えるのは苦手なのである。
考えるのは、彼の役目ではなかった。
「あのさ、聞いてる?」
「……」
呼びかけてみても、男達は何も言わなかった。
ただ黙ってこちらを見るのみである。
七花は困り顔になった。
知らない場所に放り出され、知らない男達に取り囲まれれば、七花でなくとも戸惑うだろう。
しかしそんな困惑も、男の一人が言った一言で吹っ飛んだ。
「虚刀『鑢』……」
「っ……!?」
七花は目を見開いた。
もし彼が虚刀流の名を口にしたなら、別段驚きはしなかっただろう。
しかし、彼らははっきりと言った。
虚刀『鑢』と。
それは『完了形変体刀』としての虚刀流の呼び方だった。
それを普通の人間が知るはずない。
なぜなら変体刀自体が、歴史に飲み込まれるはずの刀だからだ。
一般人が知っているはずがない――!
「おまえら……一体……」
七花はのんきな表情を一転、厳しい顔付きになった。
この際ここがどこかなどどうでもいい。
彼らが何者なのか知らなければ――!
しかしである。
世の中というのはいつも思い通りにはいかないもので、七花の思惑は外れてしまった。
「いってぇ!」
いきなり乱入してきた――というより目の前に倒れ込んできた、一人の少年によって。
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