花炎異聞録

□第十四録 千刀
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 真庭忍軍に雷のボンゴレリングを奪われてから三日後。
 リボーン、七花、ビアンキの三人は並盛山の中にいた。
 ビアンキは変体刀の所有者を探すようリボーンに言われており、つい昨日、『異変』を見付けたのである。
「ビアンキ、この辺りなのか?」
 リボーンが尋ねると、ビアンキは頷いた。
「口で言うより、見た方が早いわ。私も、初めて見た時は信じられなかったもの」
 よほど異様な光景を見たらしい。眉間にはしわが寄っている。
「近くに誰かいなかったのか?」
「いいえ。私が見た時はいなかったわ」
 七花の質問に、ビアンキは首を横に振る。
「少なくとも、貴方が最初に着ていた服装の人なんていなかったわよ」
「いや、俺の格好は向こうでもあんまいなかったけど……」
 七花は返答に困ったように頬をかいた。
「まぁそれはともかく。一体誰だろうな……」
「あ、着いたわよ」
 ビアンキが前方を指差した。
 どうやら拓けた場所になっているようだ。しかし、何があるのかはここからでは見えない。
 三人は更に近付き、その場所に出た。
「これは……!」
 リボーンは目を見開いた。
 なるほど、これは言われなければ解らない。
 そこには、刀があった。朱色の柄と鞘。特に特徴の無い、ごくごく普通の刀だ。
 それ単体ならば。
 その刀はたくさんあった。多くあった。ありふれるぐらいあった。

 全く同一の刀が、その場に大量に存在していた!

 その様はまさに圧巻。
 こちらを押し潰さん限りの数の刀。まるで分身したかのように全く同じの刀。
 十、数十、百、いやもっと――!
 無数と言える刀が、三人を取り囲んでいるようだった――!
「こんな膨大な刀が、何でこんなところに……」
「これは……千刀『鎩』だな」
 驚くリボーンに対し、七花は冷静な顔付きのまま刀を一本手に取った。普段と逆である。
「千刀『鎩』……例の、完成形変体刀の一本か」
 なるほど数多い刀とは聞いていたが、ここまで……
「名前からすると、千本の刀か」
「まぁな。所有者の名前は敦賀迷彩。っと、迷彩自身も探さなきゃな」
 七花は辺りを見渡した。
 しかし誰もいない。リボーンも視線を動かすが、人影らしき姿は無かった。
 と。

「あれ? 虚刀流のぼうやじゃないか」

 背後から声がかけられた。
 三人共気付かなかった。三人の内二人は、確かな実力を持つ暗殺者だというのに、だ。
 リボーンとビアンキは身体を緊張で硬直させるが、七花はその声に驚いたりしなかった。
 ただ振り返り、その人物によう、と挨拶をする。
「久しぶりだな、迷彩」
「あたしの感覚だとあんまり久しぶりって感じじゃ無いが……一応君の感覚に合わせて、久しぶりと返しておこう」
 背の高い女だった。山本とあまり変わらないぐらいの背丈に見える。量の多い黒髪を伸ばすだけ伸ばして、 二つに分けて縛っている。若いように見えるが、しかし妙に貫禄があった。
 着ているのは巫女装束だが、しかし袴がなぜか赤ではなく、黒である。しかしそれ以外に、特に変わったところは無い。
 そんな出で立ちの年齢不詳の女は、七花を見て首を傾げた。
「ところで何だい、その格好は。あと、そっちの二人は誰かな?」
 女――敦賀迷彩は、七花に説明を求めた。




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