書庫V
□大空の道化は笑う
1ページ/4ページ
「俺は、ボンゴレのボスを辞める」
その言葉を聞いた時、Gは愕然とした。
ボンゴレの本拠地である古城。
かつてはイタリア貴族が所有していた、中世の城である。
しかしその貴族が没落し、ボンゴレの手に渡ったのだ。
ある程度補修はされているが、今なお過去の姿を保つ堅牢な建物である。
その一室。ボンゴレのボス、ジョットの執務室に、Gはいた。
話がある、と言われて呼び出されたのだ。
そして冒頭の言葉を、唐突に聞かされたのである。
「……戦い過ぎと執務のし過ぎで頭がいかれたか」
「おいおい、俺は正気だぞ」
ジョットは苦笑した。
「本気だ。俺はボスを辞めるよ」
「……」
Gは絶句した。
幼馴染みとして小さい頃から知っているが、彼はいつも突拍子もないことを言う。
自警団を創った時も、それを元にボンゴレを創った時も。
しかし、今回に勝る驚きは無い。
「おまえ、解ってんのか? おまえが辞めたら、ファミリーはどうなる?」
Gが声を荒げて言っても、ジョットはニコニコと笑うのみである。
「なぁ、G」
「あ?」
「おまえはなぜ、俺に付いてきた?」
Gはジョットを見返した。
ジョットは執務椅子に座り、微笑を浮かべている。大きな窓を背にする姿は、絵のようにぴったり収まっていた。
金髪が陽光を浴びて輝き、澄んだオレンジ色の瞳がこちらを見据える。いつだったか、雨の守護者である朝利雨月が、ジョットの魅力は瞳にあると言っていた。
霧の守護者のD・スペードも、彼の瞳を見ると嘘も詭弁も引っ込んでしまうとよくぼやいていた。
確かに、こいつの目は真実を見抜く目だ。ファミリーの大半は、この瞳に惹かれてボンゴレに入っている。
……かくゆうG自身も、その一人だ。
しかし今ここで、そのことを素直に吐露してよいものか。
「なぜって……俺がおまえの幼馴染みだからさ」
とりあえず当たり障りの無い返事をすると、ジョットは笑みを深くした。
「……本当にそうか?」
あぁ、やはり見抜かれてる。
Gは顔をしかめた。
こいつに嘘が通じた試しが無い。
いつも見抜かれてしまう。
だが嘘をついても責めることは無く、ジョットは微笑みながら流してしまう。
この血生臭い世界で、こいつは嘘も偽りも全て包み込む。
まさに大空。全てに染まり、全てを包み込む偉大な大空。
だからこそ、こいつは人を惹き付けるのだ。
「……解ったよ、降参だ」
Gは両手を上げた。
「おまえに惹かれた。おまえの瞳に、そしておまえの心に」
「おだてるな。照れる」
ジョットははにかんだ。
言うこと解ってるくせに素で照れてやがる。
Gはあきれた。
「……んで? 何でボスを辞めるなんて言い出したんだ」
Gがそう尋ねると、ジョットは笑みの種類を変えた。
.