書庫V

□大空の道化は笑う
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「俺は、ボンゴレのボスを辞める」
 その言葉を聞いた時、Gは愕然とした。


 ボンゴレの本拠地である古城。
 かつてはイタリア貴族が所有していた、中世の城である。
 しかしその貴族が没落し、ボンゴレの手に渡ったのだ。
 ある程度補修はされているが、今なお過去の姿を保つ堅牢な建物である。
 その一室。ボンゴレのボス、ジョットの執務室に、Gはいた。
 話がある、と言われて呼び出されたのだ。
 そして冒頭の言葉を、唐突に聞かされたのである。
「……戦い過ぎと執務のし過ぎで頭がいかれたか」
「おいおい、俺は正気だぞ」
 ジョットは苦笑した。
「本気だ。俺はボスを辞めるよ」
「……」
 Gは絶句した。
 幼馴染みとして小さい頃から知っているが、彼はいつも突拍子もないことを言う。
 自警団を創った時も、それを元にボンゴレを創った時も。
 しかし、今回に勝る驚きは無い。
「おまえ、解ってんのか? おまえが辞めたら、ファミリーはどうなる?」
 Gが声を荒げて言っても、ジョットはニコニコと笑うのみである。
「なぁ、G」
「あ?」
「おまえはなぜ、俺に付いてきた?」
 Gはジョットを見返した。
 ジョットは執務椅子に座り、微笑を浮かべている。大きな窓を背にする姿は、絵のようにぴったり収まっていた。
 金髪が陽光を浴びて輝き、澄んだオレンジ色の瞳がこちらを見据える。いつだったか、雨の守護者である朝利雨月が、ジョットの魅力は瞳にあると言っていた。
 霧の守護者のD・スペードも、彼の瞳を見ると嘘も詭弁も引っ込んでしまうとよくぼやいていた。
 確かに、こいつの目は真実を見抜く目だ。ファミリーの大半は、この瞳に惹かれてボンゴレに入っている。
 ……かくゆうG自身も、その一人だ。
 しかし今ここで、そのことを素直に吐露してよいものか。
「なぜって……俺がおまえの幼馴染みだからさ」
 とりあえず当たり障りの無い返事をすると、ジョットは笑みを深くした。
「……本当にそうか?」
 あぁ、やはり見抜かれてる。
 Gは顔をしかめた。
 こいつに嘘が通じた試しが無い。
 いつも見抜かれてしまう。
 だが嘘をついても責めることは無く、ジョットは微笑みながら流してしまう。
 この血生臭い世界で、こいつは嘘も偽りも全て包み込む。
 まさに大空。全てに染まり、全てを包み込む偉大な大空。
 だからこそ、こいつは人を惹き付けるのだ。
「……解ったよ、降参だ」
 Gは両手を上げた。
「おまえに惹かれた。おまえの瞳に、そしておまえの心に」
「おだてるな。照れる」
 ジョットははにかんだ。
 言うこと解ってるくせに素で照れてやがる。
 Gはあきれた。
「……んで? 何でボスを辞めるなんて言い出したんだ」
 Gがそう尋ねると、ジョットは笑みの種類を変えた。




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